治療不可能な恋をした

会場の出口へと向かう梨乃の背中を見つけ、理人は思わず声をかけた。

「──仁科!」

その声に、梨乃は足を止めて振り返る。目が合った瞬間、驚いたように目を見開いた。

「帰んの?」

理人がそう言うと、梨乃は少しだけ間を置き、ぽつりと返す。

「うん。そのつもり」

迷いのない言葉。けれど、ここで引き下がるわけにはいかない。

「なら俺も。ちょうど帰ろうと思ってた」

そう言って自然に歩み寄ると、梨乃は少し戸惑ったように瞳を揺らした。

「駅まで一緒に行こうぜ」

理人がそう続けると、梨乃は一瞬だけ迷うような間を置き──やがて、ふっと目を逸らすようにして頷いた。

会場の喧騒を背に、並んで歩き出す。エントランスを抜け、外の空気に触れたところで、理人はふと足を止めた。

「……なあ、仁科」

呼び止めると、梨乃が小さく振り向く。

ほんのわずかに息を整えて──平静を装った声で言った。

「やっぱりさ、二次会行かねえ?……二人で」

「……え?」

「うち、ここから近いんだ。もうちょっとだけ……飲み直さない?」

梨乃は一瞬、目を瞬かせた。

「……どうして、私と?」

その問いに、理人はごく自然に、けれど内心とは裏腹な、どこまでも軽い調子で返す。

「仁科ともっと、話してみたいから」

少しだけ強引に、ほんの少しだけ踏み込むように。息を潜め、梨乃の返事を待った。
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