治療不可能な恋をした

理人はリビングのソファを指さし、軽く声をかけた。

「適当に座ってて。すぐ飲み物用意するから」

「……うん」

梨乃は小さく頷き、遠慮がちにソファの端に腰を下ろした。鞄を足元に置き、膝の上でぼんやりと指先を絡めている。

(いつも通り、だな)

キッチンで冷蔵庫を開けながら、理人は思わず苦笑する。手に取ったグラスが、微かに汗ばんだ指にしっとりと馴染んだ。

「ビールでいい?」

「あ……うん。ありがとう」

返ってきたのは、ごく普通の声。理人はそのやりとりに、逆に妙な緊張を覚えた。

(俺だけか。勝手に浮き足立ってんのは)

リビングに戻り、ビールを注げば梨乃は微かに笑ってグラスを受け取る。その際に一瞬だけ触れた指先に、ますます落ち着かない気持ちになった。

「……とりあえず、乾杯、しとく?」

グラスを掲げてみせると、梨乃も小さく手を伸ばした。静かにグラスが触れ合い、控えめな乾杯の音が部屋に響いた。

乾杯のグラスを口に運び、一口。ほんのわずかに苦味の効いたビールの喉越しが、理人の内心にざらついた感情を引っかけた。

ふと、ソファの端に座る梨乃を見る。無言でグラスを手にし、ぽつりぽつりと口をつけている。

(──全然、動揺とかしねぇんだな)

緊張してるのは、どう考えても自分だけ。そんなことに気づいた瞬間、胸の奥に妙な苛立ちが燻った。

気づけば、言葉がこぼれていた。
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