治療不可能な恋をした
「仁科って、彼氏いんの?」
グラスを持つ手を軽く振って、あくまで冗談めかして聞いた。梨乃は不意を突かれたように理人を見て、ほんの少しだけ目を細める。
「……いないよ。今まで、いたこともない」
あっさりと言い放ち、またグラスに視線を戻した。その反応に、今度は別の感情が胸の奥にじわりと広がる。
「……じゃあ、好きなやつとかは?」
さらりと投げたつもりだった。だが梨乃は少し首を傾げて、困ったように言った。
「……わかんない。好きとか、そういうのはちょっと……」
「……は?」
拍子抜けしてそう返すと、梨乃は少しだけ頬を染め、バツが悪そうに微笑んだ。
「考えたことないから、よくわからない」
そう言ってグラスを口元に運ぶ。
「……そっか」
口ではそう言いながらも、内心は穏やかじゃなかった。
“いない”でも、“いたことない”でもなく──“わからない”。
(……欠片も意識されてねえってことか)
雑談くらいのつもりだったのに、返ってきたあまりに淡白な反応に、胸の奥がじわりと熱を持つ。
一瞬、ひどくくだらないことを聞いたような気がした。けれどそれ以上に、想像以上に“何とも思われていない”現実に思わず、言葉が漏れた。
「じゃあ……俺のことは、どう思ってる?」