治療不可能な恋をした
思った以上に軽い声が出た。けれど梨乃はこちらを見るだけで、すぐには答えなかった。
グラスの縁を指でなぞり、少しだけ視線を揺らす。
「……逢坂くんは」
一拍置いて、静かに続けた。
「遠い人だから」
それは、ごく当たり前のような口調だった。けれどその言葉を聞いた瞬間、胸の奥にじんと鈍い違和感が刺さった。
(……遠いって、なんだよ)
心の中で、ぽつりと呟く。
意味がわからなかった。なのに、なぜだかやけに癪に障った。
まるで、自分が最初から“あり得ない相手”と言われた気がして。
「……遠い、ってなんだそれ」
ふっと息を吐き、理人は笑いながら肩をすくめた。軽口みたいに、けれど目は逸らさずに。
梨乃は、きょとんとした表情で理人を見る。
「だって……逢坂くんって、いつも明るくて誰とでも仲良くなれて、人気者だから……」
ぽつぽつと零れるその言葉が、ひとつひとつ胸の奥に引っかかる。
そこまで言いかけて、梨乃はふっと目を逸らした。
「……私みたいな人間とは、縁がないんだと思って」