お淑やかでか弱いお姫様をお望みでしたら他をあたってください ~正体不明の元メイドは魔王様に自分を攫わせます~
 正直に言うと、このティアラには何の愛着もない。
 さっさと返してしまえば、この面倒な騒動は終わる。その後は私が半殺しにされるだろうけれど。平和の象徴であるティアラを魔王に渡したななんて、どんな拷問にかけられても文句は言えない。
 

 だが、ふとある考えが頭をよぎった。
 
 私は、どうにかしてこの結婚から逃れたいとずっと願っていた。もし、私が魔王相手に取引を成功させれば、この面倒な結婚式や今後待ち構えているであろう窮屈な人生は、全て終わるのではないだろうか。
 
 この考えが、一筋の光のように思えた。
 
 
 私はにこりと微笑んで、口を開いた。

「なるほど。でしたら、お返しいたします」

 私は頭からティアラを取る。魔王は警戒心を持ちながらも、スッと手を差し出してきた。

 「その代わり、私をここから攫っていただけませんか?」

 魔王は手を差し出したまま、私の言葉に目を見開いた。その深紅の瞳が、少しだけ揺れたように見えた。

「貴様、何を言っている」
「ティアラを渡す代わりに、私のことを誘拐してください」

 困惑している魔王。最初こそ顔を顰めたが、私の真剣さが伝わったらしい。それでも、信じ切ることはできない様子だ。
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