お淑やかでか弱いお姫様をお望みでしたら他をあたってください ~正体不明の元メイドは魔王様に自分を攫わせます~
 見上げると、魔王が興味深そうにこちらを見ている。その赤い瞳には、先程までの冷酷さだけでなく、ほんの少しの感嘆の色が宿っているようだった。

「なかなかやるではないか」

 魔王の言葉に、私は肩を竦めてみせる。

「泣いて助けを求めるお姫様なんて性に合わないので」

 その言葉と共に悪戯に舌を出してやる。お姫様とは到底言えない振る舞い。それでも、堂々と振る舞ってやった。
 
 魔王は、それはそれは愉快そうに笑った。その顔は、先程までの威圧的な雰囲気から一変し、どこか人を惹きつける魅力があった。

「気に入った」

 その一言と同時に、持っていたティアラの重さが無くなる。代わりに、頭の上に重さが戻った。しかし先ほどのような不快感はない。

 先ほどまでの威圧的な雰囲気とは似ても似つかない、優しい手付きで丁寧に着けられる。顔を上げると、少年のような笑顔を向けられた。

「名は何という?」
「エミリー・ホワイロットと申します」
「エミリー、か。いい名だな」

 魔王はそう言うと、私に向かって手を差し伸べてきた。黒い手袋をはめた、骨ばった大きな手。私は一瞬の躊躇いもなく、その手をしっかりと握り返した。
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