最難関攻略キャラ、愛しのルカ様は今宵私の手のひらで踊る
戦いの後、海は静かだった。羽の王は拘束されていった。芋づる式にその根っこが掘り返される日もそう遠くないのかもしれない。ルカ様の父親である国王はこの事態を重く見て、王都で真相の究明を急ぐと告げたという。一方の私たちはというと――ルカ様が桟橋に座り、焦げた懐中時計を見つめている。
「終わったな」
「……まだ完全には終わってませんよ。薄汚れた根っこはそこら中に張り巡らされているからだ」
「お前、本当に無茶ばかりする」
「殿下がそういう殿下だからです」
少し沈黙。潮風が髪を揺らす。
「トウコはトウコと言いましたよね。あれはどういう意味なんですか」
「あ、あれは……何というか、トウコと初めて会った時から新しい風が吹いたように感じたのだ。異国の風が。実験がどうとか、そんなものはどうでもいい。ただ、俺は目の前のお前を信じたいと思ったんだ。だから何があっても、トウコはトウコなのだ」
「ふふ、頼もしいです。……殿下。私は今日、殿下を救えたでしょうか」
「……お前がいたから生きてる。それで十分だ」
彼が微笑んだ。胸が痛くて、でも温かかった。
――王都再建の議会。セシリア嬢が再び登壇した。痛々しい包帯の腕を晒し、彼女は毅然と言った。
「この国の仕組みは“羽”のように脆く、誰か一人の罪で崩れるものではありません。だからこそ全員で立て直す必要があるのです」
その声が、議場に響く。人々が立ち上がり拍手が起きた。傍聴席の私は思わず立ち上がってしまう。
「……素晴らしい演説でしたね」
「あぁ。彼女こそ、この国の宝の一つであるべきなんだ」
隣のギブン様が呟いた。彼の目も少し赤かった。
その夜、修復された灰階段。私はトレイを抱え、夜風に当たっていた。
「まだ起きてたのか」
後ろから声。振り向くとルカ様。……もちろんこれを狙ってましたよ、ルカ様。
「ええ。殿下を待ってました」
「また段取りか」
「これは、私の一番大切な仕事ですから」
彼が笑う。その笑顔が、すべての疲れを溶かした。
「……トウコ」
「はい?」
「もし、王が俺を次期に指名しなかったら、どうする」
「決まってます。私は殿下に仕え続けます」
「肩書きがなくなっても?」
「ええ。私の段取りは“殿下が生きる”ことですから」
沈黙。そして彼が一歩近づく。
「じゃあ、命じる。——踊れ」
「はい、殿下」
手が触れた。月が照らす。私の手を取って彼が微笑んだ。
「今度は、俺が踊らされる番か」
「最難関攻略、成功が目標でしたから」
夜風が吹き抜けた。静かに懐中時計の針が動いた。――私がこの世界に来た理由なんて、今でも正確には分からない。でも、もしあの時の私がここにきているのが過去の私のおかげなら――私は言いたい。推しを信じて生きてきて本当によかったねと。ルカ様の瞳の奥にはキャラの姿などもうない。そこにいたのは、私の現実ごと救ってくれた一人の人間だった。