破滅ルートを辿る和風シンデレラストーリーの悪役令嬢(義妹)なのに、ヒーローから溺愛されている件について
*
――亜蘭さまの猫好きは、私の予想を軽々と超えるほどに強烈だった。
猫を撫でたいから時折中庭に来たい、と言った亜蘭さまは、翌日にそれを実行してみせた。私の帰宅に合わせたかのように現れ、むぎ太郎さんを散々撫でて可愛がりながら喋って帰って行った。
香代子にも亜蘭さまが来たから一緒に、と誘ったのだけど「課題をやらなくてはいけないので」と断られてしまった。課題というのは一昨日提出期限のもので、香代子にしては珍しいことに失念していたらしく、明日に期限を伸ばしてもらったのだとか。
ということで、結局二人(と一匹)の時間になってしまった。
そして、それからというもの三日と日を空けずにかのお方はやって来るようになり、かれこれ二週間が過ぎようとしている。しかも毎回のように手土産を携えて。
「小百合さんは甘いものが好きだと伺ったので、最近できた洋菓子店でプリンを買ってきました」
「えっ、プリンですか⁉」
誰に伺ったのか気になったけれど、それよりもプリンに気を取られて手提げに目が釘付けになってしまう。プリンといえば少し前に喫茶店や洋菓子店で売られ始めた異国のスイーツで、この時代ではまだまだ高級スイーツの部類。
我が家では、父にねだってねだってたまに買って来てもらえるくらい希少だったから、プリン好きな私としてはよだれもの……。
「はい、よければ一緒に食べませんか」
「嬉しいです……、紅茶を入れてきますので、お待ちください」
台所に向かい、夕飯の支度をしているツネさんにお湯を沸かすようお願いして、その足で離れの香代子の部屋へ向かい、亜蘭さまと一緒にプリンを食べようと誘う。しかし今日も「お腹の調子がすぐれないから」と断られてしまった。
「大丈夫ですか? 薬をもらってきましょうか?」
「ありがとうございます。けど、そんな大げさなものではないので、大丈夫です。ささ、小百合さんは志藤先生の元にお戻りください! お待たせしてはいけませんよ」
くるりと体の向きを変えられてあれよあれよと部屋から追い払われてしまう。
亜蘭さまがむぎ太郎さんを訪れるようになってから、毎回のように香代子を誘うのだけど、これまで一度たりとも誘いに応じてくれたことはない。もしかして猫が苦手なのかと思い尋ねたが、そういうわけでもなく、香代子曰く「私は授業でお話しているので結構です」とのこと。
「うーん、香代子さんちょっと淡泊すぎないかしら……?」
自分の好きな人がほかの女と二人きりになるのって、普通嫌がるものじゃないかしら。
お腹が痛いっていう割には元気そうだったし……。
「私なら何としても邪魔しちゃうけどなぁ……」
と、悪役令嬢の思考回路が頭をのぞかせてきて、私はいけないけないと邪念を払う。
紅茶を手に亜蘭さまの待つ縁側へと戻ると、彼は膝にむぎ太郎さんを乗せて撫でているところだった。
すっと背筋を伸ばして座る彼の姿勢の美しさに目を奪われる。今日も固めていない髪が、さらさらと風に揺れて柔らかな曲線を描いていた。
本当に隙がない。
そんな彼が、膝にもふもふを抱えている。
むぎ太郎さんを見つめる目は柔らかく優しさに溢れていて、むぎ太郎さんに嫉妬してしまいそうになるのをこらえて、私は「お待たせしてすみません」と二人のそばへ寄る。
紅茶のカップを零さないように、互いの方へと配って縁側へと腰を下ろした。
「香代子さんを誘ったんですが、お腹の調子がよくなくて休みたいとのことでした。せっかく買ってきてくださったのに、お相手が私ですみません」
「俺は小百合さんに会いに来たので、謝る必要はありませんよ」
「そう、ですか……」
――亜蘭さまの猫好きは、私の予想を軽々と超えるほどに強烈だった。
猫を撫でたいから時折中庭に来たい、と言った亜蘭さまは、翌日にそれを実行してみせた。私の帰宅に合わせたかのように現れ、むぎ太郎さんを散々撫でて可愛がりながら喋って帰って行った。
香代子にも亜蘭さまが来たから一緒に、と誘ったのだけど「課題をやらなくてはいけないので」と断られてしまった。課題というのは一昨日提出期限のもので、香代子にしては珍しいことに失念していたらしく、明日に期限を伸ばしてもらったのだとか。
ということで、結局二人(と一匹)の時間になってしまった。
そして、それからというもの三日と日を空けずにかのお方はやって来るようになり、かれこれ二週間が過ぎようとしている。しかも毎回のように手土産を携えて。
「小百合さんは甘いものが好きだと伺ったので、最近できた洋菓子店でプリンを買ってきました」
「えっ、プリンですか⁉」
誰に伺ったのか気になったけれど、それよりもプリンに気を取られて手提げに目が釘付けになってしまう。プリンといえば少し前に喫茶店や洋菓子店で売られ始めた異国のスイーツで、この時代ではまだまだ高級スイーツの部類。
我が家では、父にねだってねだってたまに買って来てもらえるくらい希少だったから、プリン好きな私としてはよだれもの……。
「はい、よければ一緒に食べませんか」
「嬉しいです……、紅茶を入れてきますので、お待ちください」
台所に向かい、夕飯の支度をしているツネさんにお湯を沸かすようお願いして、その足で離れの香代子の部屋へ向かい、亜蘭さまと一緒にプリンを食べようと誘う。しかし今日も「お腹の調子がすぐれないから」と断られてしまった。
「大丈夫ですか? 薬をもらってきましょうか?」
「ありがとうございます。けど、そんな大げさなものではないので、大丈夫です。ささ、小百合さんは志藤先生の元にお戻りください! お待たせしてはいけませんよ」
くるりと体の向きを変えられてあれよあれよと部屋から追い払われてしまう。
亜蘭さまがむぎ太郎さんを訪れるようになってから、毎回のように香代子を誘うのだけど、これまで一度たりとも誘いに応じてくれたことはない。もしかして猫が苦手なのかと思い尋ねたが、そういうわけでもなく、香代子曰く「私は授業でお話しているので結構です」とのこと。
「うーん、香代子さんちょっと淡泊すぎないかしら……?」
自分の好きな人がほかの女と二人きりになるのって、普通嫌がるものじゃないかしら。
お腹が痛いっていう割には元気そうだったし……。
「私なら何としても邪魔しちゃうけどなぁ……」
と、悪役令嬢の思考回路が頭をのぞかせてきて、私はいけないけないと邪念を払う。
紅茶を手に亜蘭さまの待つ縁側へと戻ると、彼は膝にむぎ太郎さんを乗せて撫でているところだった。
すっと背筋を伸ばして座る彼の姿勢の美しさに目を奪われる。今日も固めていない髪が、さらさらと風に揺れて柔らかな曲線を描いていた。
本当に隙がない。
そんな彼が、膝にもふもふを抱えている。
むぎ太郎さんを見つめる目は柔らかく優しさに溢れていて、むぎ太郎さんに嫉妬してしまいそうになるのをこらえて、私は「お待たせしてすみません」と二人のそばへ寄る。
紅茶のカップを零さないように、互いの方へと配って縁側へと腰を下ろした。
「香代子さんを誘ったんですが、お腹の調子がよくなくて休みたいとのことでした。せっかく買ってきてくださったのに、お相手が私ですみません」
「俺は小百合さんに会いに来たので、謝る必要はありませんよ」
「そう、ですか……」