破滅ルートを辿る和風シンデレラストーリーの悪役令嬢(義妹)なのに、ヒーローから溺愛されている件について
9話 私は何もしてないのにどうして


 特別親しい仲になると豪語した亜蘭さまは、それからも頻繁に中庭を訪れてはむぎ太郎さんを撫でて、お菓子を食べて、私と話していった。
 あれ、暇なの?と疑問が浮かんだけれど、時折父から聞く大学での様子を聞くに、亜蘭さまは研究やら論文やらととても忙しいらしい。
 そして一番の不安要素である、ヒロイン・香代子との進捗はというと、正直なところ私にはよくわからなかった。
 二人で離れで会っているようだけれど、それもごく短い時間でしかなく、家庭教師以外で外で会っていたりする様子も見受けられない。……どころか、なぜか親戚の子の入学祝いを一緒に選んでほしい、と私が買い物に連れ出される破目になり、つい先日は亜蘭さまと二人きりで街を散策してうっかり楽しんでしまった。一応弁明しておくと、香代子も一緒にと誘ったけど例のごとく断られた。
 確かこのころには、香代子も「志藤先生」から「亜蘭先生」と名前呼びに移行していたはずなのに未だ先生呼びのままだし、一体いつになったら二人がくっついて私の安寧が確保されるのだろう。

「――考え事ですか?」

 ふと、視界に手が入ったかと思うと、俯いて頬にかかった髪を亜蘭さまの指がすくって耳へと掛けた。

「っ」

 我に返った私は、見上げた先でこちらを覗き込んでいる美男子と視線がかち合う。あまりの至近距離に声にならない悲鳴が口から零れる。紅茶のような透明度の高い瞳は、こちらの反応を楽しんでいるような、好奇の色を含んでいるのが見て取れた。

「し、志藤さま、近いです! 離れてください」

 恥ずかしさで赤くなる顔を隠すように亜蘭さまから逸らし、ぶっきらぼうに言葉を放つ。隣の彼は「ふう」と大げさに溜息をついて肩をすくめる。

「小百合さんの言う『特別親しい仲』というのは、なかなかハードルが高いですね」

 私が名前で呼ばないのをチクリと指摘されて、私は「う」と言葉に詰まった。

「これだけ頻繁に逢瀬を重ね、デヱトにも行って……それでもまだ親しい仲と認めてもらえないとは」
「い、いろいろと、語弊があるかと……」
「語弊などないですよ。俺は事実を言っているだけです」

 逢瀬だのデヱトだの、語弊だらけだ。そういうのは、ヒロインと好きなだけどうぞ。
 そう言いたいのを飲み込んで、私はキャラメルを一つ口に放り込んだ。亜蘭さまが持ってきてくれたこのキャラメルは、甘すぎなくて何個でも食べられそうで困る。

「志藤さまは、私のことを太らせようとしてますよね?」
「どうしてです?」
「だって、いつもいつも美味しいお菓子や食べ物を持ってきてくださるんですもの」
「太らせるつもりは毛頭ありませんが、小百合さんが美味しそうに食べているのを見るのが好きなんです」
「そ、それは……、変わったご趣味で……」

 好き、という言葉に頬が熱を帯びていく。赤くなっている顔を見られたくなくて、余計に顔を俯けて、私は膝の上のむぎ太郎さんを無駄に撫でまわす。
 話を逸らそうと話題を変えたのに、なんだか余計に追い詰められている気がしてこれ以上余計なことは言うまいと心に決める……。

 手を握られて、あろうことか手に口づけをされた日からというもの、亜蘭さまの距離の詰め方がエグい。デヱト――改め買い物に出かけたときだって「迷子になったら大変だ」と四六時中手を繋がれてしまったし、隙あらば触れてこようとする。
 今みたいに、「好き」とか「可愛い」とかこちらが勘違いしてしまいそうになるような言葉をぽんぽん口にするし……。

 私はそんな亜蘭さまに振り回されっぱなしだ。

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