破滅ルートを辿る和風シンデレラストーリーの悪役令嬢(義妹)なのに、ヒーローから溺愛されている件について
蓋をしたはずの、叶うことのないこの恋心を掘り起こされそうになる度に、私は「勘違いしちゃだめ」と自分を諫めるのに必死だった。
亜蘭さまとの時間を重ねれば重ねるほど、胸はときめいて、そしてそれ以上に苦しさを伴って私を苦しめる。
これ以上、心を揺さぶらないでほしいと思う一方で、今のこの幸せを手放したくない自分も居て、板挟み状態のままずるずると時間だけが過ぎていった。
きっと、穏やかな毎日にすっかり平和ボケしてしまった私に天罰が下されたのだろう。
短い秋が終わり、木枯らしが冬の訪れを知らせた頃、それは突如として私の身に降りかかった。
――ガシャンッ
と、食器の倒れる音と同時に、教室内に女生徒の驚愕の声が響いた。
「きゃぁっ!」
「香代子さんっ⁉」
「どうしたのですか⁉」
調理実習の授業でおせち料理を作り試食を終え、片づけの最中洗った食器を拭いていた香代子が倒れた。顔は血の気が失せて真っ白になり、体を震わせて嗚咽まじりに苦しんでいた。
その尋常じゃない様子に、香代子はすぐさま先生の指示で医務室に運ばれ、医者を呼びに先生が走った。私たちはその場で待機を言い渡され、ただ待つことしかできずにいた。
「大丈夫かしら、香代子さん」
「心配だわ……」
「突然でしたわよね……」
生徒たちが不安そうにそう言葉を交わす中、私は体の震えが止まらなかった。
あの苦しみ方は、原作で見た毒殺未遂のシーンそのものだったから。
なんで?どうして?香代子の毒殺はまだもっと先の春、香代子と亜蘭さまの婚約が決まったときに小百合が起こした事件なのに……。香代子を殺したいと思う人が小百合の他にもいたということ?でも、まだ毒だと決まったわけじゃないし……。
思考がぐるぐると止まらない。もし、本当に毒だったらどうしよう、香代子は大丈夫だろうか、原作では命に別状はなかったけれども……、原作と違う出来事が起こっている以上、今回も無事だとは限らない。
底知れぬ恐怖が、蔦のように蔓延っていく。
「小百合さん、顔が真っ青よ……」
「当り前じゃない、香代子さんがあんなことになったんだもの心配にもなるわ」
取り巻き達が、元気を出して、きっと大丈夫よ、と私の背中をさすってくれてどうにか呼吸ができた。
だけど、私の不安を煽るように、状況はよくない事態に陥っていく。
先生が警官を数名連れて現れたのだ。それだけで室内はざわざわと不穏な空気に覆われた。
「先生、香代子さんは無事ですか?」
「今、医師の先生が治療に当たってくださっています。それと、香代子さんの症状は毒によるものとのことでした」
先生の言葉に、私は全身から血の気が引いていくのを感じた。手足がずんずんと冷えて感覚が消えていく。
そんな……、私は何もしてないのにどうして……!
「はい、みなさんお静かに! 原因が毒だとわかった以上、これが事故なのか事件なのか調べる必要があります。みなさんにはこれから警察の方の指示に従っていただきます」
驚きや不満、不安、困惑の声が次々に上がった。こんな刑事ドラマの中のような出来事が起こるなんて、とみんな戸惑いを隠せない中、警官がなにかしゃべり始めた。
私は香代子の容態が気になって何も耳に入ってこない。震える手に顔を埋めて、ひたすら呼吸を整えていた。
「確認します」
そのくらい時間が経ったか、女性の声が自分にかけられてパッと顔をあげると、女性警官が机の上に出していた私の通学鞄を確認し始めた。どうやら、みんなの持ち物をチェックしているようだ。
声を出す気力もなく、荷物を確認するのをただ見守っていた。
「これは、何ですか?」
彼女が鞄から取り出したのは、白っぽい包み紙のようなもので、全く見覚えのないものだった。
「……し、知りません」
声が震えて、ものすごく嫌な予感が胸を過ぎ、私は口元を手で押さえるように覆った。
女性警官は、折りたたまれた紙を開いていく。中には、薄茶色の粉のようなものが入っていた。彼女は私に一瞥をくれた後、そばにいた警官に包み紙を医師に渡すよう命じた。
「それ、私のものじゃ、ありません」
私の訴えを聞いているのか聞いていないのか、彼女は無言で私の鞄をくまなく検査して、つぎの女生徒へと移っていった。
それから少ししてさっきの警官が戻ってきて何やら話し合った後、私は警察署へと連行されることになった。
自動車に乗せられて、すっかり暗くなった道を進んでいく。
どうか、香代子が無事でありますように。
私には、ただそれだけを祈ることしかできない。
亜蘭さまとの時間を重ねれば重ねるほど、胸はときめいて、そしてそれ以上に苦しさを伴って私を苦しめる。
これ以上、心を揺さぶらないでほしいと思う一方で、今のこの幸せを手放したくない自分も居て、板挟み状態のままずるずると時間だけが過ぎていった。
きっと、穏やかな毎日にすっかり平和ボケしてしまった私に天罰が下されたのだろう。
短い秋が終わり、木枯らしが冬の訪れを知らせた頃、それは突如として私の身に降りかかった。
――ガシャンッ
と、食器の倒れる音と同時に、教室内に女生徒の驚愕の声が響いた。
「きゃぁっ!」
「香代子さんっ⁉」
「どうしたのですか⁉」
調理実習の授業でおせち料理を作り試食を終え、片づけの最中洗った食器を拭いていた香代子が倒れた。顔は血の気が失せて真っ白になり、体を震わせて嗚咽まじりに苦しんでいた。
その尋常じゃない様子に、香代子はすぐさま先生の指示で医務室に運ばれ、医者を呼びに先生が走った。私たちはその場で待機を言い渡され、ただ待つことしかできずにいた。
「大丈夫かしら、香代子さん」
「心配だわ……」
「突然でしたわよね……」
生徒たちが不安そうにそう言葉を交わす中、私は体の震えが止まらなかった。
あの苦しみ方は、原作で見た毒殺未遂のシーンそのものだったから。
なんで?どうして?香代子の毒殺はまだもっと先の春、香代子と亜蘭さまの婚約が決まったときに小百合が起こした事件なのに……。香代子を殺したいと思う人が小百合の他にもいたということ?でも、まだ毒だと決まったわけじゃないし……。
思考がぐるぐると止まらない。もし、本当に毒だったらどうしよう、香代子は大丈夫だろうか、原作では命に別状はなかったけれども……、原作と違う出来事が起こっている以上、今回も無事だとは限らない。
底知れぬ恐怖が、蔦のように蔓延っていく。
「小百合さん、顔が真っ青よ……」
「当り前じゃない、香代子さんがあんなことになったんだもの心配にもなるわ」
取り巻き達が、元気を出して、きっと大丈夫よ、と私の背中をさすってくれてどうにか呼吸ができた。
だけど、私の不安を煽るように、状況はよくない事態に陥っていく。
先生が警官を数名連れて現れたのだ。それだけで室内はざわざわと不穏な空気に覆われた。
「先生、香代子さんは無事ですか?」
「今、医師の先生が治療に当たってくださっています。それと、香代子さんの症状は毒によるものとのことでした」
先生の言葉に、私は全身から血の気が引いていくのを感じた。手足がずんずんと冷えて感覚が消えていく。
そんな……、私は何もしてないのにどうして……!
「はい、みなさんお静かに! 原因が毒だとわかった以上、これが事故なのか事件なのか調べる必要があります。みなさんにはこれから警察の方の指示に従っていただきます」
驚きや不満、不安、困惑の声が次々に上がった。こんな刑事ドラマの中のような出来事が起こるなんて、とみんな戸惑いを隠せない中、警官がなにかしゃべり始めた。
私は香代子の容態が気になって何も耳に入ってこない。震える手に顔を埋めて、ひたすら呼吸を整えていた。
「確認します」
そのくらい時間が経ったか、女性の声が自分にかけられてパッと顔をあげると、女性警官が机の上に出していた私の通学鞄を確認し始めた。どうやら、みんなの持ち物をチェックしているようだ。
声を出す気力もなく、荷物を確認するのをただ見守っていた。
「これは、何ですか?」
彼女が鞄から取り出したのは、白っぽい包み紙のようなもので、全く見覚えのないものだった。
「……し、知りません」
声が震えて、ものすごく嫌な予感が胸を過ぎ、私は口元を手で押さえるように覆った。
女性警官は、折りたたまれた紙を開いていく。中には、薄茶色の粉のようなものが入っていた。彼女は私に一瞥をくれた後、そばにいた警官に包み紙を医師に渡すよう命じた。
「それ、私のものじゃ、ありません」
私の訴えを聞いているのか聞いていないのか、彼女は無言で私の鞄をくまなく検査して、つぎの女生徒へと移っていった。
それから少ししてさっきの警官が戻ってきて何やら話し合った後、私は警察署へと連行されることになった。
自動車に乗せられて、すっかり暗くなった道を進んでいく。
どうか、香代子が無事でありますように。
私には、ただそれだけを祈ることしかできない。