破滅ルートを辿る和風シンデレラストーリーの悪役令嬢(義妹)なのに、ヒーローから溺愛されている件について
10話 一人で、よく頑張りました


 警察署では、事情聴取が再度行われ、終わると個室に閉じ込められた。どれくらいそうしていたか、精神的な疲労で意識がうつらうつらしてきた頃に出てくるよう促された。そして
、連れていかれた先で待っていた人物に、私は目を瞠った。

「小百合さん!」
「……あ……亜蘭さま……」

 私を連れてきた警察官は、亜蘭さまに会釈をして去って行く。
 一体なにがどうなっているのか、いろいろな疑問や思いで胸の中があふれて処理しきれずに言葉を失っていると、体が強い力で引っ張られた。疲れ切っていた私の体は、そのままとん、と亜蘭さまの胸に倒れ込み、あっという間に腕の中に閉じ込められた。

「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした」

 私を抱きしめる腕の強さとは裏腹に、耳元では彼の声が優しく響く。真綿で包まれたような安心感に、ピンと張りつめたままだった私の緊張の糸がほんの少し緩んだ。

「香代子さんは? 香代子さんは無事ですか⁉」
「はい、対処が早かったのもあり、大事には至りませんでした」
「……っ、よかったぁ……よかっ、た……」
「小百合さん⁉」

 一番の不安が取り除かれたことに安堵したせいか、突如視界が暗転した。



 目が覚めて、見えた天井が自分の家でないことに気づいた瞬間、私の思考は一気に冴えわたる。昨日の出来事が鮮明に蘇り、動悸が激しくなって私は勢いよく起き上がった。

「ん……」
「えっ」

 人の気配と、思うように動かない右手に気づいて見遣ると、そこには私の手を握りしめて布団に突っ伏した格好の亜蘭さまがいた。
 もしかして、ずっとそばにいてくれた……?
ここはどこかの洋間で、私が寝ていたのは布団ではなくベッドだ。亜蘭さまは床に座り込んでベッドに上体を預けて眠っていた。

「し、志藤さま、起きてください」
「ん……、あ、小百合さん……、お加減はどうですか」

 強張った体を伸ばして、彼は何でもない風にそう聞いてきた。亜蘭さまが昨日と同じ服を着ているのを見て、なんだか申し訳なくなる。

「すみません、私、気を失ってしまったみたいで……。ここは、志藤さまのお宅でしょうか」
「そうです、小百合さんのご実家はバタバタしてるだろうと、こちらでお預かりしますと俺から教授に買って出ました」
「それは、大変ご迷惑をおかけしました。その、着るものまで……」

 制服だったはずの私は、とても肌触りのよい寝間着を着ていた。自分で着替えた記憶はないので、誰かが着替えさせてくれたのだろう。

「あぁ、皺になるとよくないと思って、うちの使用人の女性に着替えを頼みました」
「なにからなにまでありがとうございます。それで、」
「香代子さんはもう目を覚まされて、状態も落ち着いているそうです」

 それを聞いて、やっと息ができたきがした私は両手で顔を覆った。深く息を吐いて、体を心を落ち着かせる。
 突然倒れて苦しむ彼女の姿が、ずっと頭から離れなくて怖かった。
 何度か呼吸を繰り返していると、背中に温かいものがそっと触れて、私の粟立った心をなだめるようにゆっくりと撫でてくれる。

「怖かったですね。一人で、よく頑張りました。それから、あなたに罪をなすりつけた犯人は昨夜自首しました。――まぁ、自首させた、と言った方が正しいかもしれませんが」
「えっ、一体誰だったんですか⁉」

 私は急展開に驚いて、手から顔をあげた。

「同じ組の相田直子です」
「えっ、直子さんが……? 直子さんは、香代子さんの一番のご友人だったはずじゃ……」
「そうらしいですね……。相田直子は、香代子さんが自分と同じ愛妾の子という境遇にも関わらず、嫡子の小百合さんと親しくなっていくのが許せなかった、と言っていました」
「そんな……」

 なんて身勝手な理由だろうか。彼女に怒りを感じるとともに、彼女の憎しみのきっかけを作ってしまった上、香代子を危険な目に合わせてしまった自分にも腹が立った。

「でも、どうして志藤さまがお気づきに?」

 自首をさせたというさっきの彼の言葉が気になり尋ねると、彼は眉根を歪ませてなんとも微妙な表情を見せた。

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