破滅ルートを辿る和風シンデレラストーリーの悪役令嬢(義妹)なのに、ヒーローから溺愛されている件について
「あの……、香代子さんは、志藤さまのことを好いてるんじゃないんですか?」
耳元で囁くと、彼女はのけ反って目を見開いて驚きの表情を見せる。
「まぁっ、小百合さん……そんな風に思っていたのですか⁉ ……あぁ、それで、いつも私をお茶に誘いに……」
途中から独り言のようなつぶやきに代わり、ふむふむ、なるほど、と彼女は一人で納得し始めた。かと思えば「先生、少し小百合さんとお話があるので、二人だけにしていただけますか?」と退席を頼んだのだった。
「では、私は中庭で待っていますね」
こくんと頷くのを確認して、亜蘭さまは部屋から出ていった。扉が閉まるのを確認して、香代子が口を開く。
「どうして私が志藤先生を好きだと思ったのか……など、聞きたいことは山ほどあるんですが……。とりあえず、それは誤解です。私は、先生を人として尊敬してますが、異性として見たことは一度もありませんよ」
「嘘……」
「本当です。ですから、小百合さんは、さっさと素直になりましょうね」
「えっと……」
「今も先生のことがお好きなんでしょう? 小百合さんのお気持ちを正直にお伝えになればよろしいじゃないですか」
「で、でも……」
ヒーローとヒロインがくっつかないなんて、そんなことが起こっていいの?と考えてから、私は今朝のことを思い出す。ここは私たちが生きている世界であって、物語の世界じゃないと、自分で結論づけたじゃない。
だから、私の目の前にいる香代子も、恋ロマのヒロイン・香代子じゃない、私の腹違いの姉妹――家族の香代子なんだ。
私は『恋ロマ』の悪役令嬢で、香代子はヒーローの亜蘭さまとくっついて幸せになるという未来を信じて疑わなかった。だから、私は亜蘭さまを好きになったらだめで、二人から距離を取らないとって……。
でも、そうじゃないんだ……。
急に、フィルターが消えて、視界が開けたような解放感が訪れた。
その瞬間、さっき頬を赤らめた亜蘭さまが頭に思い浮かんだ。それだけじゃない、これまで彼が私に向けてくれた、優しい眼差しやむぎ太郎さんを撫でる姿、背中を撫でてくれた温かな手……記憶の中の亜蘭さまが次々に頭を過ぎていき、胸の奥底の小さな箱にぎゅうぎゅうに押し込めて蓋をしていた感情が、あふれ出した。
「香代子さん、私……」
「早く行ってあげてください。きっと、まだかまだかと首を長ーくして待っていらっしゃいますよ」
慈愛に満ちた眼差しを受けて、私は部屋を飛び出した。