破滅ルートを辿る和風シンデレラストーリーの悪役令嬢(義妹)なのに、ヒーローから溺愛されている件について
 父は娘たちを可愛がる一方で、母への負い目も少なからず感じて香代子に当たる母や小百合に強く出られない。香代子も父に告げ口や弱音を吐かないため、父はそれほど深刻視していないようでもあった。

 だけど、転生前の人生を思い出した今の私にとっては、妾だなんだなんて話は全く意味をなさないどころかくだらなさすぎて問題にもならない。

「どこまでお人よしなの、この人は……」
「小百合さん? 今なにかおっしゃいました?」

 聞き取れなくてごめんなさい、と謝ってくる目の前の香代子に私は「いいえ」と素知らぬ顔で首を振る。
 彼女は、座り込んだままの私の前に一歩近寄り、腰を下ろして目線を合わせてきた。こうして近くで見ると、香代子は本当に美しかった。柔らかに目元を緩ませて微笑む顔は、慈愛に満ちていて彼女の心まで美しいことを物語る。

「小百合さんのお気持ちはとても嬉しいです。ありがとうございます」
「お姉さま……」

 目の前にいる香代子は、物語の中のヒロインと寸分違わずどこまでも強くて優しかった。

「小百合さん、私たち一月しか違わないのにお姉さまと呼ばれるのはなんだか恥ずかしいです。その……もし小百合さんが構わないのであれば、名前で呼んでくださると嬉しいのですけど……」

 少し怯えを含んだその伺いに、私は激しく首肯する。

「わ、わかりましたわ! じゃぁ、香代子さんって呼ばせてもらいますね」

 ほっといたように彼女は顔をほころばせて、私の両手を握りしめる。優しく触れた手は、少しかさついていた。皿洗いや掃除、洗濯も時折やらされているせいだ。

「小百合さん、私、嬉しいです……」

 その言葉尻が震えていることに気付いて、私ははっと顔をあげる。彼女の漆黒の瞳にうっすらと涙が滲み、揺らめいていた。光を反射するその様は、雲一つないよく晴れた星空のようにきらきらと輝いてすら見える。

「本当にごめんなさい。あなたは私にとって唯一の姉妹なのに……どう償ったらよいか……」
「償うなんてそんな……。こうして心を開いてくださっただけで十分です」

 どれほど彼女の心を傷つけてしまったのだろうかと、罪悪感で胸が締め付けられた。けれど、この心苦しさなど彼女の苦しみと比べることすらおこがましい。

 過去を悔いているだけでは、何も解決しないし始まらない。
 だから私は、贖罪としてこれから先、全力で彼女の幸せをサポートしていこうと心に決めていた。

「香代子さん、見ていてくださいね。私、これからは態度で示しますから!」

 涙を堪える目の前の健気な姉は、またしても極上の微笑みをその顔に湛えて頷き返してくれたのだった。


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