破滅ルートを辿る和風シンデレラストーリーの悪役令嬢(義妹)なのに、ヒーローから溺愛されている件について
 着物を着ていた香代子の足から足袋を脱がして、水に濡らして絞った手ぬぐいをそっと当ててやる。
 足首がぷっくりと腫れてしまっていて痛々しかった。

「志藤先生も、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
「いえ、私のことはお気になさらず。大事ないとよいのですが……。それと、小百合さ」
「――志藤さま、あの、父からお聞き及びかと思いますが、私は志藤さまのご指導を今後辞退させていただきとうございます」

 立ち上がり、亜蘭さまへと向き直る。またさっきのような、非難の目を向けられるのが怖くて顔は見れなかった。亜蘭さまの足元に視線を落として、目を伏せる。

「え……、あ、そうですか、教授からは何も伺っておりませんでしたが……、何か私の指導に不手際でも」
「いえ、すべて私の都合です。志藤さまに非は一切ございませんのでご安心ください。これまでご指導いただきありがとうございました。また、至らない生徒でしたことお詫び申し上げます」

 女学校で習ったお辞儀の仕方に倣って、私は腰を折った。最後に彼の目に映る自分は、少しでも美しい姿であってほしかったから。
 これで、私と亜蘭さまの接点は完全に断ち切られる。死ぬ未来を回避すべく、不安要素は排除するに越したことはない。邪魔者は大人しく引っ込みますのでご安心を。

「では、香代子さんもこんな状態ですし、せっかくお越しいただいたのに申し訳ございませんが、今日のところはお引き取りいただけますでしょうか」
「……わかりました。では、日取りは改めてご相談させていただきます。香代子さん、くれぐれもご無理なさらずお大事になさってください」
「志藤先生、本当に申し訳ございませんでした。今日のお詫びとお礼はまた後日改めてさせてください」

 挨拶もそこそこに、私は亜蘭さまを促して玄関まで見送る。
 本当は部屋の前でお別れしたかったけど、それではあまりにも礼に欠けるので、致し方なく。
 無言の気まずい空気の中、私は早足で廊下を突き進む。もう何も話しかけないでくださいオーラを全身に纏って。

「あ、ツネさん、志藤さまが帰られます。門までお見送りをお願い」

 ちょうど玄関の方から来た女中頭のツネさんに後を頼んで、私は端に体を寄せる。亜蘭さまは一瞬足を止めてこちらにもの言いたげな視線をよこしたものの、私は気付かない振りをして俯いたまま手でどうぞと促した。

「お気をつけてお帰りくださいませ」
「……では、失礼いたします」

 彼は、ツネさんから手渡された靴ベラを使って革靴を履き、外へ出る。
 カラカラ、と玄関扉が閉まるまで、私は頭を下げたままその場に立ち尽くしていた。

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