勇者に婚約破棄された魔女は、魔王に婚約を申し込みに行きました。 ~かつて最恐と呼ばれた魔女の封印は、無知な勇者が解きました~
 数人の兵士と共に歩みを進め、庭園に出ると、今度は庭園の手入れをしていた老魔人が声をかけた。彼は昔から城の庭園の管理をしてくれている魔人だ。

「おお、魔王様にジアンナさん。それに、皆さんまで珍しいですね。お疲れ様です。散歩ですか?」
「ああ。たまにはな」
「そうですか。ここは気分転換になるでしょう。いつでもいらしてください」
「…そういえば、花が一段と鮮やかになったな。前に来た時と違うように見えるが…」

 魔王がそう言うと、老魔族は嬉しそうに顔を綻ばせる。

「そうなのです。ジアンナ様が魔力で土壌を改良してくださってから、植物たちが活き活きとしているのです。ジアンナさん、ありがとうございます」
「魔力なら有り余っているので、いつでも!私も楽しかったですよ!」

 老魔族の言葉に、ジアンナはにっこりと微笑んだ。魔王は、老魔族から目を離し、ジアンナへと視線を向ける。

 魔王は、この1年間のことを思い返した。
 ジアンナが来てからというもの、執務室に積まれていた書類は半分に減り、魔族たちの間にも活気が戻ってきた。 彼女は、経費計算や書類整理だけでなく、土壌改良や、その知識の提供まで行っていたのか。
 
 最初は、敵としてみなされた彼女。しかし、いつの間にか魔王城の中で、確固たる立場を着実に構築していた。加えて、その事実を全く知らなかった自分に驚いた。そういえば、幹部以外と会話をしたのは何十年振りだろうか。
 
 魔王は改めて、ジアンナの存在の大きさを実感した。

 「? どうされました?」

 ジアンナが、かつて最恐の魔女と呼ばれていたことなど、今となっては取るに足らないことのように思えた。彼女は、ただ、自分と共にあり、共に生きることを望んでいる。その気持ちが、魔王には痛いほど伝わってきた。

「……何でもないさ。ただ、嬉しく思っただけだ」
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