完璧すぎる淑女は「可愛げがない」という理由で婚約破棄されました。 ~元聖女ですが、古代魔術まで極めてみました~
 王都の喧騒から隔絶されたヴァインベルク侯爵邸の一室で、エメラルダは静かに日々を過ごしていた。
 人々は彼女が婚約破棄された失意のあまり、部屋に引きこもっているのだと噂した。侯爵夫妻は、そんな娘を心配し、何度か部屋を訪れたが、エメラルダはただ静かに笑みを浮かべるだけだった。

「お父様、お母様。ご心配なく。私は元気ですわ。ただ少し、静かに考える時間が欲しかっただけです」

 エメラルダは、そう言って両親を安心させた。彼らは、完璧な淑女であった娘が、初めて見せたほんのわずかな感情の揺れを悲しみだと解釈した。そして、それが娘にとって必要な時間なのだと信じ、そっとしておいてくれた。
 だが、エメラルダの心に悲しみはなかった。彼女は婚約という足枷から解放されたことを、密かに喜んでいた。

 王太子の婚約者として、聖女として、彼女は常に完璧であることを求められてきた。その重圧から解放された今、彼女は初めて、自分自身の興味と向き合う自由を手に入れたのだ。
 エメラルダは、幼い頃から聖女の血を引く者として、それなりの教育を受けてきた。しかし、彼女の心は常に、その教義の範囲を超えた、未知の魔術に惹かれていた。

(神は、なぜこれほどの力を人間に与えたのかしら)

 聖女の力は人々を癒し、祝福を与えるためのものだと教えられてきた。しかし、エメラルダは、その力にはもっと別の側面があるのではないかと考えていた。力は、ただ人を助けるためだけに存在するのではない。使い方次第で、いかようにも変化する。

「きっと何かしらの意味はあるはず。聖女の力は、それだけの枠に留まっていいものではないもの」
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