隠れ才女な転生王女、本日も王宮でお務めです~人質だけど、冷徹お兄さんと薬草知識でみんなを救っちゃいます~

1-2

「あ、えっと……オゼダディ王国から来ましたキーシアと申しますわ。よろしくお願いします」
「ぼ、僕はシェリゴンです」


 朝早くから私は、侍女に同じく人質として連れてきた子と挨拶をしたいと告げた。そしたら私よりも前についていたという二人と挨拶をすることに出来た。


 キーシアはオゼダディ王国の筆頭公爵家の娘よね、確か。その国ではとても力のある家らしいとは知っているわ。王族ではなく公爵家の娘を差し出したのは、オゼダディ王国のせめてもの抵抗なのかしら。
 私よりも何歳か年上かしら。艶のある美しい赤色の髪で、将来美人さんになりそうだわ。
 なんというか、今の段階からとても綺麗だもの。
 シェリゴンは、私と同じく王族。私やキーシアよりも少しだけ年下に見える。こんなに小さい子が人質として祖国から離れることになるなんて……、きっと心細いだろうなと思った。


「私はヘーゼリア・リーテンダ。二人とも仲良くしてくれたら嬉しいわ」


 私はそう言って二人へ微笑みかけた。


 同じ人質という立場である私に対してもそれぞれ思う所はあるだろう。それに突然こんな状況になって悲しいとか、不安とかできっといっぱいなはず。表情が強張っているのを見ると、笑ってほしいなとそんな気持ちになる。
 私は人の笑顔を見るのが好き。
 お母様が笑ってくれるのも凄く嬉しかった。キーシアとシェリゴンも笑ったらもっと素敵だろうなと思う。


「ちょっと待っててね」

 私はそう口にすると、侍女達に向かって一つのことを聞く。


「三人で遊びたいのだけれども、構わないかしら?」

 どうしたら笑ってもらえるだろうか、強張った顔を緩められるだろうか。
 前世の記憶も含めて思い起こしてみると、やっぱり子供は遊んでいる時が一番いいわ。侍女は確認しにきますといって、一旦その場を後にする。



 人質がこの国に滞在することになったのは、戦争で負けたから。
 ステリクア王国側だってこんなことが起こらなかったら人質を預かるなんてことはしなかっただろう。

「わ、私達は人質なのよ? 下手に要望を口にしすぎたら危ないわ」

 侍女が確認に向かった後、キーシアがそう言って私の耳元で囁く。どうやら心配してくれているみたい。



「大丈夫だと思うわ。少なくともこの国も、陛下も――私達を悪い様にしようとはしていないように見えるわ。それに怒られたらなんとかするから大丈夫」


 直感というか、昨日ついたばかりでもここでの暮らしがそんなに悪いものではないというのは分かっている。
 それに本当に危機的状況になったら誰を味方につけてでもなんとかしてみせるわ。流石に六歳の可愛い女の子が泣いて誤れば話ぐらいは聞いてくれると思うし。



 うん、本当に怒られそうな時は大泣きしよう。


 そんな決意をしている間に侍女達が戻ってきて、遊ぶ許可をもらえた。ついでに遊ぶ道具も持ってきてもらえたわ。
 やっぱり陛下は私達を悪いようにする気はないのがよく分かる。それにこれらの玩具は新品だもの。わざわざ購入したのかしら?
 そもそもの話、人質を所望したのはこれ以上戦争を続けないため。やろうと思えば人質なんか取らずに国を潰すことぐらい出来たはず。それをせずに停戦に持っていったあたり、ステリクア王国の国王陛下はかなり平和主義ではある。
 それに昨日与えられた部屋も良いものだったもの。こうして遊び道具を持ってきてくれたことも含めて、子供が好きだったりするのかな。



「早速遊びましょう」


 私はそう言って、キーシアとシェリゴンを誘い一緒に遊ぶ。


 馬の乗り物にシェリゴンを乗せると、表情が明るくなってほっとした。キーシアは本を読むことが好きみたいね。持ってきてもらったのは絵本なのだけれども、私も読んでいて楽しかった。



 お母様に呼んでもらった絵本……タイトルは一切覚えていないけれども、読めるなら読みたいな。もしかしたらこの城の図書館にはあるかもしれないもの。
 本も沢山読みたいな。いっぱい知識をつけたら、私でも出来ることを見つけていけるかもしれない。


 陛下にご挨拶が出来るようになったら、私達がどこまでの範囲で何をしていいかはきちんと聞かないと。
 それに……調合が出来るならやりたいな。
 私のお母様は調合が得意だったの。趣味といってもいいのかも。私もね、その知識を教えてもらっているの。


「……」
「ヘーゼリア、どうしたの?」

 お母様のことを考えてぼーっとしていたら、キーシアからそう問いかけられる。

「ううん。なんでもないわ。それより――」

 一先ず今は思いっきりこの子達と遊ぼう。

 どこまで出来て、何が駄目なのか。私達の立ち位置に関しても確認を一つ一つしていこう。
 それに私以外にはまだ二人しかここにはいないけれども、他にも数人は子供達が来るはず。その子達とも仲良くなれればいいな。
 全員と仲良くなれたら、きっと楽しいわ。それに各国の有力者の子供達と仲良くなって置ければ、将来的に利点の方がずっと大きい。なんて打算的な考えを抱いているのを知ったら、この子達は嫌がるかな? どうなんだろう? 私は前世の記憶があるのと、あんまり同年代の子供達と関わったことがないからこれでいいのかなとそんな気持ちになる。


 でも出来る限りのことは頑張ろう。

















 まだ国王陛下への挨拶は出来ていない。早めに挨拶をしたいなとそんな風に感じている。
 キーシアやシェリゴン達はこの国の陛下へと挨拶が出来ていないことを不安に思っているようだった。
 追加でやってきた三人に関しても同様で、ステリクア王国は人質達に非人道的な扱いをされるのではとそう思っているみたい。




「大丈夫よ。陛下が私達のために用意してくださった部屋はとても素晴らしいものだったでしょ? それに私達の遊び道具も陛下がくださったものなの。だからそんな風に心配する必要はないわ」

 安心させるためにそう口にして、はっとする。

 六歳らしからぬ口調で言ってしまったかもしれない。たまにこうやって私の持つ別人の記憶が影響することがある。
 もっと子供らしい方がきっといいんだろうなと思うから気をつけたいけれどね! だって大人びすぎる子供なんて気味が悪いと思われても仕方ないもん。


「ヘーゼリアは凄い……。私、これからどうなるんだろうって心配になってしまっているの。私よりも年下のあなたが頑張っているんだから私だって頑張るわ」


 キーシアは決意したようにそんなことを言った。
 私は前世があるから一般的な六歳児の考え方とは全く違うと、自分でも思っている。だから私と比べてそんな風に落ち込んだりしなくていいのになって。
 私はキーシアの手を引いて、少しだけ離れた位置へ連れていく。キーシアとお喋りしたいなと思ったけれど、流石にもっと小さな子に聞かせる会話でもないなと思ったから。
 私は他の子供達から少し離れた場所へとキーシアと共に向かうと、口を開く。


「私ね、こういう時には楽しんだものがちだとは思っているの。私のお母様は、辛いときこそんな風に考えた方がいいと言ってたの」


 キーシアの手をぎゅっと握って、私はそう言った。
 ずっと不安を感じていると悲しくなるの。悲しい気持ちでいっぱいになると泣きたくなる。そして誰かが泣いてしまったら、連鎖して皆で辛い気持ちになったら――また良くないことに繋がったりする。
 お母様は私に、笑っていて欲しいと言っていた。
 もちろん、泣いては駄目なんてそんなわけじゃない。お母様は感情を殺すことを望んではない。でもお母様の望みってちょっと難しいよね。

 無茶をしない方がいいけれど、笑っていて欲しいって、そんな感じなんだもん。
 でも出来る限りそうしたいの。それにね、私がキーシアに告げている言葉は本心なんだよ。私も笑っている自分の方が好きだもん。


「そうね……。私もヘーゼリアのように考えるようになるべくするわ」
「うん! それにね、私達のような子供は笑っている方が周りに好きになってもらえるよ」



 私が続けてそう言ったら、キーシアは驚いた顔をする。こんなことを考えているなんて引かれてしまうかな? 前世の記憶を顧みると子供でこんな風なことを言う子って嫌われたりもする。
 でも私はヘーゼリアにはこのようなことを言っても大丈夫じゃないかなとそんなことを思っているから。
 ……なんて、もしかしたら失敗するかもしれないけれど。だって私は同年代の子と一緒に過ごすことも離すことも今世ではなかったから。頭で分かっているのと実際に話すのとでは違うよね。
 まぁ、これで嫌われたら嫌われたでその時はその時!



「あははっ、ヘーゼリアは幼いのに豪胆なのね? まさかこのステリクア王国の方々をいい様に使おうとしているの?」
「もう……使うなんて人聞きが悪いわ! 嫌われるよりも好かれる方がいいでしょ? だから私のことを好きになってもらえたら嬉しいの。その方がきっと良いことでいっぱいになるはずだもん」
「そうね。私も同じように頑張ろうかしら」
「うん。一緒に頑張ろう? キーシア、凄く可愛いからにこにこしていたら皆が好きになってくれるはずだから」

 私がそう言って笑ったら、キーシアは不思議そうな顔をして嬉しそうに笑った。

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ。私も……祖国に帰った時のことも踏まえて、色んな人と仲良くなれるようにする!」
「ええ。その調子だわ! あのね、返事は来ていないけれど私は国王陛下に手紙を書いたの。キーシアも一緒に書かない?」

 そんなお誘いをしたのは、人質として滞在している子供達の中でもキーシアが冷静に見えたから。
 他の子達は、此処にきて間もなくてまだ落ち着いていない。だから私がこんな提案をしたところで、反対する子もいたとは思う。けれどキーシアはまだ私の話を聞いてくれているから、頷いてくれるのかなと少し期待した。


「まぁ! それも好きになってもらうための作戦なの?」
「それもあるわ。だけれど上手くいかなかったらそれはそれでいいの。ほら、私達は人質として此処にいるでしょ? だからこの国の人達が私達に良くする必要ってないの」

 敗者に対して勝者がどうするかなんて、自由なのだ。
 前世の記憶で垣間見た歴史の中でも、そういうものだった。結局こちらに伝えられている情報は、捻じ曲げられたものだったりもしていた。正直人質の子供達に対して、ステリクア王国がどうしても自由なのだ。
 例えば殺してしまって、不慮の事故だと言っても通るだろう。
 そういうものなので、本当に今の所、何処までも平和でいいなとそんな風に思っているの!
 それはとても喜ぶべきことだよね。



「なのにこれだけよくしてくださっているのだもの。私はお礼を言いたいの。これは心からの感情よ」

 私がそう言ってにっこりと微笑めばキーシアも笑ってくれた。


「それもそうね。私、自分のことばかり考えていたけれど、確かにこんなに良い暮らしを人質でさせてもらえるのって好待遇だわ」
「そうよ。だからありがとうを伝えようよ」


 私がそう言うとキーシアは頷いてくれたので、私はキーシアと一緒にその後、手紙を書いたの。
 前回のありがとうございますという手紙には返答は来てないよ。でもね、こういう言葉は幾ら伝えたってかまわないの。


 あ、でもあんまりにも恩着せがましく伝え続けるのも問題かな? 私は出来ればこの国の人達に自分のことを好きになってもらえたらとっても嬉しいと思う。けれど、無理にそうしてほしいわけじゃないもんね。



 人間関係って難しい。
 勉強とかだと、答えが一つしかないものって沢山ある。だけれども人と人との関わり合いなんて大変なの。一つのことがかみ合わなかったら破綻したりとかもするんだよね。
 だからこそ私のやっていることって綱渡りかも。どれだけこの国の人達に私のことを好きになってもらいたくても結局逆高価な可能性だってあるのだから。
 だけど私はお母様の言葉に従って、やれることはやるの! もちろん、本当に嫌がられてたらやめるよ。その時はね、子供らしく……ごめんなさいってちゃんとするわ!


 流石に私みたいな小さな子が謝ったら本気で怒ったりは体裁もあるから出来ないはずだしね!


「でーきた!」


 今回は玩具に関してと、他の人質の子達と仲良くなれて嬉しいことなどを書いたよ。同じ内容を幾ら送ってもどうかと思うし、そういう風にしたの。

 それから侍女に私とキーシアの書いた手紙を届けてもらった。

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