隠れ才女な転生王女、本日も王宮でお務めです~人質だけど、冷徹お兄さんと薬草知識でみんなを救っちゃいます~

1-3

「ヘーゼリア王女、本日は陛下との謁見がありますがご衣装はどうなさいますか?」


 侍女からそう問いかけられる。
 傍に居る侍女はドリーナではない。他の侍女や執事たちに関してもきちんと名前を聞いて全部覚えたよ。
 私の周りに控えている人達のことは全部覚えておきたかったから。
 私が全員の名前を覚えると、凄くびっくりされたけれどね。


 それはさておき、今日はついに陛下との謁見の日だよ。時間がかかったのは、忙しいからだというのをちゃんと理解出来ている。手紙の返答も来ないしね。
 それでもまぁ、全然いいけれどね。寧ろ構わずにどんどん送り付けているわ。迷惑にならないようには気を付けてはいるけれど!
 これまでに同じ人質の子達との交流を深めたわ! 私と同じ年の男の子であるファブリダが泣きわめいていたから宥めたりとかしていたの! 私は一生懸命頑張ったわ。


 ――ヘーゼリア王女のおかげで助かっています。
 そんな風にも言ってもらえたから、ちゃんと評価はされているとは思う。陛下にも伝わっているのでは? と勝手に期待しているけどどうだろう?


 私の有能さが伝わっているのならば、褒めてもらえたりしないかな。なんて期待しすぎたら駄目ね。
 出来れば良くやったとか言ってもらえたらとても嬉しいのだけど。
 私はついついそんな風に欲が出てしまった。私もまだ六歳だから、こういう風に何をしたいとか、これをしたいとか、そういうことを思っちゃう。


 少しぐらいならいいかもだけど、欲をかきすぎたらだめだよね。そう思っているから私は自分の頬を軽くたたいて気合を入れる。
 ようやく陛下に挨拶が出来るのだから、ちゃんとしないとね。
 この国にやってきての大イベントだわ。私達の世界は狭い。正直立場もあるから城の外には出れないだろうし、私達の世界が広がることなんてないんじゃないかなーと思っている。


 だからこそこのお城の主である陛下には気に居られないといけない。




「私が一番可愛く見える衣装がいいの」



 衣装、どれにしようか。
 やっぱり可愛いものがいいよね。今世の私はとても可愛いから、何でも似合うの。お母様も生前、私のことを可愛いって沢山言ってくれたわ。


 私はそのことが嬉しくて、沢山おしゃれをしていたの。
 お母様が亡くなってからは中々色んな衣装を着ることは出来なくなっていたけれど、ステリクア王国では違うわ。


 今、私の前には何着もの衣装があるの。
 王女として考えれば少ないかもだけど十分だわ。どれも可愛くて悩んでしまう。アクセサリーなども最低限そろえられている。
 やっぱりこの国の人達は、人質の子供達相手にもきちんとした対応をしてくれているんだなというのがこれらの衣装を見ているだけでも分かる。


「こちらはいかがですか?」


 そう言って進められたのは、美しい青のドレス。海か何かのよう。
 ああ、ヘーゼリアとしては海なんて見たことはない。だけどそんな感情を抱くのは、前世でよく見ていたから。
 前世の私。別世界で生きていた、私じゃない私。その人は港街で生まれ育っていた。だから海の音も、匂いも……全てなじみ深いものだった。
 だからだろか、今の私もその海の色が好きなの。



「わぁ、素敵なドレス。私ね、この色好きなの」


 私がにっこりと笑うと、侍女達は嬉しそうに笑ってくれた。
 好きな色に囲まれていると自然と笑顔になる。それにしてもこの国の人達は私の好きな色なんて知らないだろうけれども侍女がこのドレスを選んでくれたことがただただ嬉しかった。


 私って単純だなと自分でも思う。
 だけど嬉しいものは、嬉しいものね!
 それにしてもここまで綺麗な海色は初めて見たかも。


「このドレスは特別な染料でも使っているの? 見たことないぐらいとても綺麗な青色だわ」


 私がそう言うと、侍女は自慢げに語ってくれる。


「分かりますか! これはこのステリクア王国でしか生産させていないものを使っているのですわ。確か魔物の素材を使っていて……」


 そこまで意気揚々と語ったけれど、侍女は口を閉じた。
 あ、これはあれね。他国の人間に語るべきではないものだけど、私が子供だからとついつい話してしまったもののようね。
 仕える相手が子供だからこそだろうけれど、駄目だわ。
 この国では許されるかもしれない。それでも他の国だと斬首刑になってもおかしくない。


「へぇー、そうなのね。難しいことは私には分からないけれど、一先ず凄いわ!」


 今はまだ忠告はしてあげない。だって察しが良すぎる子供は不気味に思われたりするかもしれないもの。私はそう言う視線で見られるよりも、ただ可愛がられる方がいいわ。
 その方がこの国でも生きやすいだろうし。
 それにしても魔物の素材を使った、この国でしか生産されないものかぁ。
 私は祖国に帰ることがあったとしてもこの情報を語ることはないだろう。だってあの国に利がある情報を与える気はない。尤も何も情報がなければ面倒な事態にはなるかもしれないから、自分の身を守るためのどうでもいい情報は流すかもしれないが。


「ねぇ、髪飾りなどはどれがいいと思う?」


 私はそう言って話を逸らす。
 いつまでもこの話を続けていると侍女が気にするかもしれないから。
 私が話を意図的に変えた事には、気づいていないみたい。単純で可愛い子だなぁと思った
 ドレスを身に纏い、髪飾りなどのアクセサリーを身に着け、鏡の前に立つ。


 我ながら可愛いわ。
 どんな衣服でも似合うのよね。こんなに素敵なものを貸していただけるなんて、人質生活中におしゃれに目覚めそうだわ。


 でも全て自分の物というわけではないんだよね。
 陛下に確認をしてからになるだろうけれど、自分の個人資産を増やす方法を探したいなぁ。まだ私は子供で、自分のお金なんてものはない。


 こちらに来る前にもらったものは、リーテンダ王国のもの。そして此処で与えられたすべては、ステリクア王国のもの。
 ……本当に私自身の資産なんて欠片もない。
 どうやったら自分のお金稼げるかな? お金をもらうってことはそれだけ自分が役に立つのだと証明もしなければならないもの。この国にとって私が価値のある存在だと示す方法ってなんだろう?


 お母様に教わったことが役に立つかな? 
 しかし自分のことを売り込むためにもまずは陛下や他の方達とも仲良くする必要はあるわ。大人たちと親しくならないと、こちらからの要望なんて口に出すことが出来ないもの。


 そんなことを考えながら、私はキーシア達と合流をすると陛下へと挨拶へと向かった。
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