隠れ才女な転生王女、本日も王宮でお務めです~人質だけど、冷徹お兄さんと薬草知識でみんなを救っちゃいます~

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 カシュア。
 それがこの前見かけた少年の名前らしいというのを侍女から聞いた。


 王宮魔術師の弟子で、膨大な魔力量を持ち合わせているらしい。自分の見た目に無頓着でだからこそ髪を伸ばしていたりするんだとか。
 将来的にこの王宮に務めることがほぼ内定していて、王宮に顔を出しているらしい。
 その話を聞いて、凄いなと正直な感想を抱いた。
 だってまだ十代だというのに王宮に仕えることが出来るなんて素晴らしいことだもん。



 それも自分の実力でそんな立場にいるらしいの。元々の才能も当然関係はしているだろうけれども、それだけで王宮魔術師の弟子なんてものにはなれない。
 私は王族という立場だからこそ、この国に来られて良い暮らしを今させてもらっている。でもだからこそ……自分の力で頑張っている人というのは余計に憧れてしまう。

 私はそんな風になれたらと夢見ている。
 それは私がずっと小さい頃からの望みでもあるかも。だってね、前世の私の一生を見ると比較的自由に生きていた。でも今の私は全然そうじゃない。



 王族の血を引く存在であるからこそ、自分の思い通りになったことってあんまりない。
 なので余計に王宮魔術師に内定しているなんて素晴らしいことだとそう思ってならない。話しかけてみたいなと少しは思ったけれど、流石に人質の身でいきなり話しかけるのは難しい。


 それに向こうは、私や他の人質の子供達に良い感情は抱いていないみたい。
 といっても冷たいとかそんなわけではなくて、ただ関わりがないというだけだけど。


 それにしても魔術か。
 前世ではそんなものが存在しない世界で私は生きていた。そして今世ではそんなものは習ったことがない。自分に魔術の才能があるかどうかも分からない。


 魔術師というのは、基本的にエリートが多い。流れの魔術師も存在はするけれど、ほとんどがどこかに所属しているとはお母様から聞いたことがある。リーテンダ王国にも魔術師は少なからずいたはず。ただ私に関わることはなかったけれど。
 魔術……。
 どんなものなのかかなり気になる。ただ人質の身でそんなものを学ぼうとすると、危険分子扱いされる可能性はあるわよね。



 やっぱりやりたいことをするにあたっては、信頼してもらうことが一番。
 いっそのこと、制約でも自らかしてこの国を害する気はないと示す? それとも何かしら功績でも挙げればやりたいことが出来るようになるかな?
 って、魔術の話を聞いたら興味が湧いて仕方がないけれどそうじゃないわ。真っ先に私がやるべきことは自分の有用性をこの国に示すこと。


 となると魔術ではなくて、私の得意分野を見せた方がいい。
 今はただ遊んで学んで、のんびりと過ごしているだけだけど……国家間の関係性が変わっていけばどうなるか分からないし。
 子供だからと許される慈悲があったとしても、行動はすべき。


 あとは味方をもっと増やすことが重要なので、色んな人に話しかけられるタイミングで話しかけている。
 例えば私達に仕えている侍女や使用人達。とても優秀な人達ばかりで、私達が敗戦国からやってきた人質でしかない私達にもよくしてくれている。それだけでも本当に出来た人たちだ。
 きっと仕事とプライベートをしっかり分けられているのだと思う。



「ヘーゼリア様、お菓子でも食べませんか?」


 ……それに私が考え込んでいるのを見ると、お菓子とかを持ってきてくれるの。
 私のことを心配してくれているんだろうなと思う。


 その繋がりで、厨房で働く人たちにもお礼の手紙を書いたわ。いつも美味しい料理とお菓子をありがとうってそれだけを書いた手紙だけれど。
 それでもこういうお礼の言葉って大事だわ。
 どれもこれも美味しいし、毒物なども見られないからそのあたりも安心よね。


「美味しい」

 お菓子なんて正直、祖国に居た頃はあまり食べられなかった。クッキーやケーキ、それに果物を凍らせたアイスなど、様々なおやつがここでは食べられるの。甘くて、ふわふわして、口にするだけで幸せな気持ちでいっぱいになる。



 例えば護衛として私達の周りに居てくれている騎士達。直接会話を交わすことはあまりないけれど、時々挨拶を交わしたりするぐらい。それでも挨拶をすると笑ってくれている人も多い。不愛想な人もいるけれど、私のことを特に嫌っていないのは分かっているからそれは嬉しい。
 騎士ってかっこいい。


 主を守るために尽くす人たち。騎士という地位についていても、そういう志がない人もいる。私はそんな騎士にも会ったことはある。そういう名ばかりの騎士だと、何かをきっかけに暴力を振るったりすることだってある。ただこの国の騎士達は少なくともちゃんとしている騎士ばかりだ。
 そういう騎士達のことは素直に尊敬する。
 私は武器とかを扱ったことはない。持ったこともないけれど、私ではきっと持つことも叶わないぐらい重いのだろうなと想像が出来る。
 騎士の鍛錬とかも見てみたいな、という思いも湧く。


「ヘーゼリア様、またお手紙を書かれているのですか?」
「ええ。返事は来ていないけれど、伝えたいから」


 侍女からの問いかけにそう返答する。


 少しずつ私は周りの人達との交友を深めることは出来ている。私に笑いかけている人達も多くて、そのことにはほっとする。



 ふとした時にお母様のことを思い起こす。
 私の大切なお母様。もう会えないお母様のことを思うと、幼い頃の日々が恋しくなる。


 いつか私が権力を手にすることが出来たら……リーテンダ王国からお母様のお墓を移動させたいなとそんな野望もあったりする。まぁ、それをするためにはよっぽどのことがないと無理だけれどね。
 私は大人になった時、どういう私になっているだろうか。
 それまで生き延びていることが重要だけど、そんな未来を想像してみる。


 お母様のようになりたい。状況はそうでありたくはないけれど、お母様みたいに優しい大人になりたいな。
 そうなるためにももっと陛下からの心証をよくしたい。なんて打算的なことを考えている。
 だから一度挨拶をした後、何度も何度も手紙を渡してみる。途中から返答がたまに来るようになった。



 そうしてしばらく過ごしているうちに私が望んでいた返答が返ってきた。
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