隠れ才女な転生王女、本日も王宮でお務めです~人質だけど、冷徹お兄さんと薬草知識でみんなを救っちゃいます~
1-6
「何か望みはないかと、陛下がお聞きになっております」
そんな伝言を受け取って、口元が緩まないように気を付ける。こんな風に向こうから聞かれるまで我慢して大人しくしていた甲斐があったわ。
「でしたら……調合をさせてほしいです」
「調合?」
私に伝言を伝えに来た執事服を着た男性が驚いた顔になる。
私の申し出が予想外だったのだろうな。確かに六歳児がそんなことを言い出すなんて、不思議だろう。だから私は不気味に思われてしまうかも……とそれだけ心配になる。
これまで大人しく、子供らしく振る舞うことを心がけていた。そうした方がいいと判断したから。
だけれども子供らしくない調合について口にしてしまったのは……それが私にとって大切なものだったから。
出来るのならば、ずっとやりたいと思っていたこと。だから何か要望を聞かれた時には絶対にこのことを口にしようとそう思っていたんだ。
「ええ。私は調合が趣味なの。子供らしくないかもしれないけれど、リーテンダ王国を出てから一度も出来てないから……可能ならやらせてもらいたいなとそう思ったの」
少し言葉を選びながら、私はそう口にする。
これで変な子供だと思われたらどうしようか。そんなことばかりを私は考えている。
「分かりました。陛下にお聞きしておきます」
そう答えられる。表情は、少し怪訝そう。だけれども受け入れてくれてはいると思う。
……陛下も、私がこんなことを望んだからと悪感情を持ったりしないかしらと要望を口にした後に少し不安になる。だけど口に出してしまった言葉は消えることはない。だからまぁ、これで駄目だったらそれはそれで考えましょう。
もし子供らしくないと言われても、もっと話しかけていけば上手くいくはずだもの。
そんなことを考えながら私は陛下からの返答待ちの間、ずっと落ち着かなかった。
本を読んでいても、キーシア達と遊んでいても心ここにあらずな態度はしてしまっていたと思う。
周りにも「大丈夫ですか?」と心配されてしまった。
一緒に人質として此処にいる子供達の瞳が不安で揺れているのを見て、このままでは駄目だとそんな気持ちになった。
私が普段と違う様子を見せ続けたら、他の子達に気持ちが伝染していったりしちゃう。今でも泣き出しそうな顔をしていたから、私は一先ず陛下に頼んだことは頭の隅に追いやることにした。
ただキーシア達と別れた後に関しては物思いにふけてしまう。
「ふぅ……」
大きな息を吐いて、私は本を椅子に腰かけている。
調合、出来るようになるかな。お母様が教えてくれた知識、私の頭に沢山ある。お母様は私が前世の記憶と呼ばれるものを持っていることを知っても、変わらず可愛がってくれた。本当に信頼できる人以外には言ってはいけないよとそう言っていた。いつか、お母様と同じぐらいに信頼が出来る相手に出会えたりするのだろうか。……出会いたいなとそう思った。
ただ調合が出来るようになったとしても、それに使う薬草などに関してはどうやって手に入れたらいいんだろうか。その分のお金もかかるわよね。
王宮に務めの薬師の方とも話してみたいなぁ。私みたいな子供の話を聞いてくれる人だといいのだけど。
なんて、まだ許可も出されていないのに調合が出来るようになったらというのを思考してみる。
六歳児らしかぬ趣味だろうけれども、私は調合が好きだ。薬草をすりつぶして、新しい効果のものを作り出すのってワクワクするから。
許可が出されなかったら……少なくとも人質生活中は出来なくなってしまうかな。
折角教わったことも忘れてしまいそうだ、なんて思って少し悶々とする。
そうしているうちに返答が来たのは、二日後のことだった。
「陛下からのお返事が……って、どうなさいましたか? そんなに緊張する必要はありませんよ?」
陛下からの返答を持ってきたのは、まだ若い執事だった。とはいっても私よりは十か二十かは上だろうけれども、執事の中ではまだ若いと思う。そんな年齢で陛下からの伝言を任されるほどということは優秀なのだろうなと思ったり。
もし駄目だったら……と変な態度をしてしまっていた私はそんなことを言われてしまった。
こんな調子では駄目ねと気合を入れて、表情をキリッっとしたものにする。
「なんでもありませんわ。それよりもお返事をお聞きしてもいいかしら」
私がそう口にすると、執事は一瞬何か聞きたそうな顔をして、すぐに口を開く。
「調合をしたいとのことですが、それは問題ありません。ただし作るものに関してはこちらで確認させていただく形になります」
「本当ですの?」
嬉しくなって、自然と声が弾む。
子供っぽい反応をしてしまったと少しだけ恥ずかしい。だけど、私にとって調合が出来ることが本当に嬉しかった。
成果物に関しては確認されるのは当然のことだと思う。調合って、身体に良いものばかりが目につくけれど、毒物だって扱うのだから。それに身体に悪いものだって作ることが出来る。
私はそういった知識を持ち合わせている。
幾ら私が子供だからとはいっても、こうして警戒するのが当然だ。寧ろこれだけ私のことをきちんと考えてくれているんだなと思うと、ほっとする。逆に子供だからと無条件に何でもやらせる国なんて、恐ろしいことこの上ないもの。
「はい。その際には王宮勤めの薬師の施設で作業してもらう形にはなります」
「まぁ! ステリクア王国の王宮の施設を使わせていただけるなんて嬉しいですわ」
きっと素晴らしいものなのだろうな、と喜んでしまう。
祖国に居た頃は、お母様の残してくれたものを使っていただけだったもの! もちろん、その道具も大事なものだわ。ただこちらに持っては来れなかったのよね。
もしかしたら捨てられている可能性さえもあるわ。そう考えると少し悲しい。
どちらの国だったとしても、王宮の設備というだけでもきっと素敵なんだろうなとそう思う。特にこのリーテンダ王国では、観察している限り王宮勤めの人達は生き生きと仕事しているように見える。実際に話したことがあるのは侍女や騎士ぐらいだけれども、雰囲気が良いのも分かるもの。
ああ、楽しみで仕方がないわ!
私は嬉しくて仕方がなくて、ついついだらしない顔をしそうになる。我慢はしているけれどね。
「素材に関しても使わせていただけるという認識でいいかしら? それとも自分で手に入れる必要があるの? それだったら採取に行く手配をさせてもらえると嬉しいですわ。ただ採取場所によっては一人では無理かもしれないのでその時は……」
「素材に関してなどは薬師達が使っているものを使用するで問題ないと聞いておりますよ。それにしてもヘーゼリア様はそのような顔も出来るのですね」
「申し訳ございません。つい、調合が出来ることが嬉しくて勢い任せに喋ってしまいましたわ」
早口でまくし立てるように問いかけてしまったことについ反省する。
調合が出来ると思うと、こんなにもはしゃいでしまった自分が恥ずかしい。
執事の男性――キレードは私の様子を見てくすくすと笑っている。
「いえ、問題ございません。子供らしくてよろしいかと思います。ヘーゼリア様の様子を陛下にお伝えすれば喜ばれることでしょう。薬師達への共有やヘーゼリア様用の道具などの準備も進めるとのことなので、今すぐには調合は出来ませんが少しお待ちいただけますでしょうか?」
楽しそうに笑いながらそう言われて、恥ずかしさに少し顔が赤くなっている気がする。
「もちろんですわ。陛下にはこのヘーゼリアがお礼を言っていたことをお伝えください」
「……直接お会いになってお礼を伝えますか? 陛下にお聞きすることは出来ますよ」
「本当ですの? でしたらお願いしたいですわ」
人質の身で陛下に自分から謁見を望むのはどうだろうとずっと頭を掠めていた。あくまで私は施される側というか……そういう認識ではあった。でもキレードの態度を見る限り、私の方からそういうことを告げても問題がないのかも? と気づいた。
ただそのあたりはちゃんと、段階を踏んで近づく必要がある。
「かしこまりました。では伝えておきます」
そう言ってキレードはその場から去っていった。
そんな伝言を受け取って、口元が緩まないように気を付ける。こんな風に向こうから聞かれるまで我慢して大人しくしていた甲斐があったわ。
「でしたら……調合をさせてほしいです」
「調合?」
私に伝言を伝えに来た執事服を着た男性が驚いた顔になる。
私の申し出が予想外だったのだろうな。確かに六歳児がそんなことを言い出すなんて、不思議だろう。だから私は不気味に思われてしまうかも……とそれだけ心配になる。
これまで大人しく、子供らしく振る舞うことを心がけていた。そうした方がいいと判断したから。
だけれども子供らしくない調合について口にしてしまったのは……それが私にとって大切なものだったから。
出来るのならば、ずっとやりたいと思っていたこと。だから何か要望を聞かれた時には絶対にこのことを口にしようとそう思っていたんだ。
「ええ。私は調合が趣味なの。子供らしくないかもしれないけれど、リーテンダ王国を出てから一度も出来てないから……可能ならやらせてもらいたいなとそう思ったの」
少し言葉を選びながら、私はそう口にする。
これで変な子供だと思われたらどうしようか。そんなことばかりを私は考えている。
「分かりました。陛下にお聞きしておきます」
そう答えられる。表情は、少し怪訝そう。だけれども受け入れてくれてはいると思う。
……陛下も、私がこんなことを望んだからと悪感情を持ったりしないかしらと要望を口にした後に少し不安になる。だけど口に出してしまった言葉は消えることはない。だからまぁ、これで駄目だったらそれはそれで考えましょう。
もし子供らしくないと言われても、もっと話しかけていけば上手くいくはずだもの。
そんなことを考えながら私は陛下からの返答待ちの間、ずっと落ち着かなかった。
本を読んでいても、キーシア達と遊んでいても心ここにあらずな態度はしてしまっていたと思う。
周りにも「大丈夫ですか?」と心配されてしまった。
一緒に人質として此処にいる子供達の瞳が不安で揺れているのを見て、このままでは駄目だとそんな気持ちになった。
私が普段と違う様子を見せ続けたら、他の子達に気持ちが伝染していったりしちゃう。今でも泣き出しそうな顔をしていたから、私は一先ず陛下に頼んだことは頭の隅に追いやることにした。
ただキーシア達と別れた後に関しては物思いにふけてしまう。
「ふぅ……」
大きな息を吐いて、私は本を椅子に腰かけている。
調合、出来るようになるかな。お母様が教えてくれた知識、私の頭に沢山ある。お母様は私が前世の記憶と呼ばれるものを持っていることを知っても、変わらず可愛がってくれた。本当に信頼できる人以外には言ってはいけないよとそう言っていた。いつか、お母様と同じぐらいに信頼が出来る相手に出会えたりするのだろうか。……出会いたいなとそう思った。
ただ調合が出来るようになったとしても、それに使う薬草などに関してはどうやって手に入れたらいいんだろうか。その分のお金もかかるわよね。
王宮に務めの薬師の方とも話してみたいなぁ。私みたいな子供の話を聞いてくれる人だといいのだけど。
なんて、まだ許可も出されていないのに調合が出来るようになったらというのを思考してみる。
六歳児らしかぬ趣味だろうけれども、私は調合が好きだ。薬草をすりつぶして、新しい効果のものを作り出すのってワクワクするから。
許可が出されなかったら……少なくとも人質生活中は出来なくなってしまうかな。
折角教わったことも忘れてしまいそうだ、なんて思って少し悶々とする。
そうしているうちに返答が来たのは、二日後のことだった。
「陛下からのお返事が……って、どうなさいましたか? そんなに緊張する必要はありませんよ?」
陛下からの返答を持ってきたのは、まだ若い執事だった。とはいっても私よりは十か二十かは上だろうけれども、執事の中ではまだ若いと思う。そんな年齢で陛下からの伝言を任されるほどということは優秀なのだろうなと思ったり。
もし駄目だったら……と変な態度をしてしまっていた私はそんなことを言われてしまった。
こんな調子では駄目ねと気合を入れて、表情をキリッっとしたものにする。
「なんでもありませんわ。それよりもお返事をお聞きしてもいいかしら」
私がそう口にすると、執事は一瞬何か聞きたそうな顔をして、すぐに口を開く。
「調合をしたいとのことですが、それは問題ありません。ただし作るものに関してはこちらで確認させていただく形になります」
「本当ですの?」
嬉しくなって、自然と声が弾む。
子供っぽい反応をしてしまったと少しだけ恥ずかしい。だけど、私にとって調合が出来ることが本当に嬉しかった。
成果物に関しては確認されるのは当然のことだと思う。調合って、身体に良いものばかりが目につくけれど、毒物だって扱うのだから。それに身体に悪いものだって作ることが出来る。
私はそういった知識を持ち合わせている。
幾ら私が子供だからとはいっても、こうして警戒するのが当然だ。寧ろこれだけ私のことをきちんと考えてくれているんだなと思うと、ほっとする。逆に子供だからと無条件に何でもやらせる国なんて、恐ろしいことこの上ないもの。
「はい。その際には王宮勤めの薬師の施設で作業してもらう形にはなります」
「まぁ! ステリクア王国の王宮の施設を使わせていただけるなんて嬉しいですわ」
きっと素晴らしいものなのだろうな、と喜んでしまう。
祖国に居た頃は、お母様の残してくれたものを使っていただけだったもの! もちろん、その道具も大事なものだわ。ただこちらに持っては来れなかったのよね。
もしかしたら捨てられている可能性さえもあるわ。そう考えると少し悲しい。
どちらの国だったとしても、王宮の設備というだけでもきっと素敵なんだろうなとそう思う。特にこのリーテンダ王国では、観察している限り王宮勤めの人達は生き生きと仕事しているように見える。実際に話したことがあるのは侍女や騎士ぐらいだけれども、雰囲気が良いのも分かるもの。
ああ、楽しみで仕方がないわ!
私は嬉しくて仕方がなくて、ついついだらしない顔をしそうになる。我慢はしているけれどね。
「素材に関しても使わせていただけるという認識でいいかしら? それとも自分で手に入れる必要があるの? それだったら採取に行く手配をさせてもらえると嬉しいですわ。ただ採取場所によっては一人では無理かもしれないのでその時は……」
「素材に関してなどは薬師達が使っているものを使用するで問題ないと聞いておりますよ。それにしてもヘーゼリア様はそのような顔も出来るのですね」
「申し訳ございません。つい、調合が出来ることが嬉しくて勢い任せに喋ってしまいましたわ」
早口でまくし立てるように問いかけてしまったことについ反省する。
調合が出来ると思うと、こんなにもはしゃいでしまった自分が恥ずかしい。
執事の男性――キレードは私の様子を見てくすくすと笑っている。
「いえ、問題ございません。子供らしくてよろしいかと思います。ヘーゼリア様の様子を陛下にお伝えすれば喜ばれることでしょう。薬師達への共有やヘーゼリア様用の道具などの準備も進めるとのことなので、今すぐには調合は出来ませんが少しお待ちいただけますでしょうか?」
楽しそうに笑いながらそう言われて、恥ずかしさに少し顔が赤くなっている気がする。
「もちろんですわ。陛下にはこのヘーゼリアがお礼を言っていたことをお伝えください」
「……直接お会いになってお礼を伝えますか? 陛下にお聞きすることは出来ますよ」
「本当ですの? でしたらお願いしたいですわ」
人質の身で陛下に自分から謁見を望むのはどうだろうとずっと頭を掠めていた。あくまで私は施される側というか……そういう認識ではあった。でもキレードの態度を見る限り、私の方からそういうことを告げても問題がないのかも? と気づいた。
ただそのあたりはちゃんと、段階を踏んで近づく必要がある。
「かしこまりました。では伝えておきます」
そう言ってキレードはその場から去っていった。