隠れ才女な転生王女、本日も王宮でお務めです~人質だけど、冷徹お兄さんと薬草知識でみんなを救っちゃいます~

1-7

「やった!」


 残された私は一人で声をあげる。
 調合が出来るようになると思うと、黙っていられなかった。ただ周りに迷惑はかけたくないから音量には気を付ける。
 私は大きな声ってあんまり出したことないかも。


 本の中で大声を出すとすっきりしたりすると書いてあったから一度ぐらい大きな声出してみたいなとどうでもいいことを考えてしまった。
 折角調合をするのならば、やっぱりこの国のためになるものを作るべきだろう。
 まずは情報収集をすべきね。どんな効果の薬が求められているかというのを知らなければならない。


 そして私の薬によって誰かが救われたりしたら……きっと幸せなことだろうな。
 私が頑張って結果を出せたら、陛下も周りの人たちも喜んでくれるかもしれない。私のこれまでの調合は、自分のための行動だった。作ったものを売るとかも出来なかったし、あくまで私が生きていた世界は限られていた。
 特にお母様が亡くなってからは、特に私が人と関わることって少なかったから。



 自分の作ったものが、誰かの手へと渡る。誰かのためになる。そう考えるだけでなんだか興奮して寝付けない気持ち。
 子供だからこそ、あんまり夜更かししない方がいい。私は年の割には背が低いから、もっと大きくなりたいな。
 そう思っているからいつも規則正しく眠るようにしているのだけど。
 珍しく眠気がやってこなくて、少しだけうずうずした気持ちになった。



 とはいえ部屋の外に勝手に出るなんてことはしたくないので、大人しく部屋の中で出来ることを探そうにも……正直ない。持ってきてもらった本を読むぐらい。



 持ってきてもらった本の中には、薬草の本などがあるからそれを読んでおこうか?
 私が読んだことない本は読むのが楽しいわ。
 私の前世の記憶と言える別の人生では、調合なんてものは当然やったことがなかった。その頃の記憶を思い起こすと、飲みやすい薬が作れたらいいわよね。


 錠剤のようなもの。
 この世界の薬だと、苦い飲み薬とか粉状のものが多い。ああいう錠剤式のものはどうやったら作れるんだろう?



 別の人生の記憶ではその作り方について調べたことがなかった。口に含んで、水などで飲みこめばすぐに飲めるのっていいなと思う。
 それに味付きのものまであったはずだもの。


 基本的には薬って、必要最低限の機能がついているだけで飲みやすいようにとか、味をつけるとかそういう工夫はあんまりされていない印象。ならその方面で飲みやすい薬などを作れたりするだろうか。
 これからのことを考えると私は楽しみで仕方ない。けれど、あれね、ちゃんと周りの目を考えた上で、私が目立った行動をしてもいいと判断できないとそんなことはしては駄目だわ。
 少なくとも現状はステリクア王国の人達は、私のことを利用しようなんて考えていない。人質という立場の私にもよくしてくれている。
 だけど私に明確な利用価値があると分かった場合、どうだろう?


 話した感じや、周りからの印象を聞いた限りは陛下はそんなことはなさそうに見える。
 ただこの国はともかくとしてリーテンダ王国はどうか分からない。私の利用価値を知ったら、何か面倒な接触はあるかも? 調合が出来るのは嬉しいけれど、そう言った提案はもう少し色々状況が整ってからじゃないといけない。
 一番は庇護者が出来るのがいいけれど、うーん、どうするのがいいのだろう?
 ずっと悶々と、私はそんなことばかり思考してしまっていた。


「ヘーゼリア様、まだ起きていらっしゃるのですか?」


 そうしていたら部屋の明かりがついていることに気づいたらしい侍女から声を掛けられる。




「あ、ごめんなさい。中々寝付けなくて……」
「そうなのですね。ホットミルクでも持ってきましょうか」
「ありがとう」



 やっぱりこの国には良い人たちが多いなと、そんなことを思いながらお礼を口にする。
 こんな風に誰かに気遣われたりすると、とても暖かい気持ちになる。嬉しくて仕方がなくて、この人たちのために何かをしたいなとそう思って仕方がない。


 私は単純なのかもしれない。
 こうして簡単に人に対して信用してしまうなんて、私の立場からしたらやらない方がいいのに。
 私みたいに幼くて、他国の王家の娘なんて立場であるなら利用しようとしてくる人だってきっといるはずなのに。



 ――でも私は、この国の人達のことを信じてみたい。
 もちろん、利用されようとするならこちらが利用してやるってそんな気持ちはあるけれどもそれだけではなくて……私は出来れば互いに信じあえる関係性を作れたらってそう願っている。

「こちらをどうぞ」

 そう言って侍女が持ってきてくれたホットミルクを口に含む。
 どうしようもないほど美味しく感じるのは、侍女の心遣いが嬉しいからなのかもしれない。


「美味しい。ありがとう」


 お礼を言って、一息を吐く。
 そして飲み干した後は、大人しくベッドに横になった。
 胸がぽかぽかして、嬉しい気持ちになって……侍女の「おやすみなさい」という優しい声を聞きながら、私は眠りについた。



 調合が出来るのが楽しみだな、とそればかりを思いながら。
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