長い春の先にあったのは
藍へのプロポーズ(仁side)
藍はあちこちに目を動かしていた。夜景を見たり、料理を見たり、俺を見たり。目だけが忙しく動いている。ここをプロポーズの舞台にしてよかったと思う。

「料理、うまいな」

マナー動画を見て練習したことを思い出しながら料理を口に運ぶ。藍も頷きながら肉料理を口に運んでいた。料理名なんてもうすっかり忘れてしまったけど、前菜からメインディッシュまで何もかもがうまい。さすがは高級ホテルのレストランだ。

思い返せば、俺と藍のデートでこんなところに来たことがない。お互い職場から呼び出しがあることを珍しくないため、県外に遊びに行ったことすら片手で数えるほどだ。おしゃれなカフェやレストランにも行ったことはない。クリスマスだって、おしゃれなディナーじゃなくて家でオードブルを買って祝ったくらいだ。

俺は料理を飲み込んだ後、藍を見つめる。自然と口から言葉が出ていた。

「……ずっと寂しい思いをさせてごめんな。しばらくはゆっくりできるだろうから」

藍はナイフとフォークを置き、「別に気にしてないよ」と笑う。でも、その笑みの裏側できっと色んな想いを抱えていたかもしれない。俺は拳を握り締めた。
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