長い春の先にあったのは
「私、仁くんと結婚することを考えていたこともあった。でももう無理だよ。仁くんへの気持ちはない。……私たち、もう終わりにしましょう。その方がお互いのためだよ」

そう言い、藍が歩き出す。俺は慌ててその手を掴んだ。藍は顔を顰める。力が強かったかもしれない。でも、まずは指輪の件を謝らないといけないと思った。

「待ってくれ。結婚考えてたんだろ。何でダメなんだよ。この指輪が嫌なら、また一緒に見に行こう。お前の気に入ったやつを渡すから。な?」

藍は俺の手を振り解く。そして睨み付けた。藍の目は、まるで氷のように冷たいものだった。

「指輪の件だけで気持ちが冷めたわけじゃないから。私、一回仁くんに電話したことあったでしょ?」

「あ、ああ……。あの時、酷いこと言って電話切ってごめーーー」

「あの時電話したのは、私、死ぬかもしれないって怖かったからだよ!!」

俺の言葉が大きな声で遮られる。藍の瞳は潤んでいた。そのまま藍は、あの日あった出来事を話す。全然知らなかった……。そんなことがあったなら、電話するのは当たり前じゃねぇか。

「ごめん。そんなことになってたなんて、ちっとも知らなかった」

「知らなかったんじゃなくて、知ろうとしなかったんでしょ!?私、本当に怖かった!!狂犬病の致死率は100%だよ!!検査結果が出るまで泣いて過ごした!!……狂犬病ウイルスが陰性だったとわかった時、安心して倒れそうになったよ」
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