転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜
「ニコラ」
「ん?」

 なぜか、さっきよりもラビッツが近い。椅子ごと近い。

「私も……頑張るわ」
「へ?」

 何をだ?
 クッキーはもらったから……。

「いや、次はやはり俺の番だろう」
「え???」
「といっても料理は、前世で家庭科実習とその前日の家での特訓でしかやったことがないからな。得意料理は、冷やしミカンだ」

 親指を立ててキラリと笑ってみせる。
 
「冷やしてるだけじゃない」
「そうとも言う」
「って違うわよ、もー」

 笑いながら、 ラビッツが迷うように炭酸レモン団子を少しだけ齧る。「ほんとだ、シュワシュワ」と食べる仕草が、どこか色っぽくてドキリとする。

「あんたの……ね」
「ん?」
「隣に、自信をもって立てるように頑張るわ」
「……え? もう自信はもっていいんじゃないか? 世界で一番可愛いぞ」
「た、例えば、語学は苦手だったりするけど頑張る。他にも全部全部、妃教育は苦手だったけど頑張るわ」

 語学……。今は転送装置があるから、地理的に離れている国との交流も結構ある。通訳はいるものの、話せたほうがいいのは間違いない。日々の練習が大事だと、毎日書類を寮まで持ってくる侍従と外国語で話す時間まで強制的に設けられている。

 寮に戻ってからも、完全に休めるわけなじゃないんだよな……。前世よりも倍以上、頑張っている。

「突然どうしたんだ? 語学には俺も苦しめられているけど」
「あんたって、すごく王子様なんだもん」
「え?」
「どうしてそんなに王子様なのよっ」

 どういうことだ?
 確かに王子らしい対応を親しくない生徒にはしているし、それも慣れてきた。

 ただ、身分という虎の威を借る狐だ。それがなくて、どこにも所属していなければ……誰も俺の言葉なんて聞いてくれない。おそらく前世と大して変わらないだろう。

「負けないんだからね!」

 そう言って、ラビッツが俺の皿からピリ辛団子を手に取ると口に押し付けてきた。

「むぐっ。ピリ辛だ」

 あれ、もしかしてさっきのクッキーもこのピリ辛団子も、「はい、あーん」の図なんじゃないか!?

「俺も『はい、あーん』がしたい」
「は、はぁ!?」
「ラビッツ、あーんだ!」

 にんじん練り練り団子が、俺の手から少しだけ彼女の口の中へと移った。

「あんたって、おバカなのかおバカじゃないのかよく分かんないわね……」

 ラビッツが、俺の手からにんじん団子の一部を切り取ると、また俺の口の中へと放り込んだ。

 今俺は、好きな女の子と食べさせ合いっこをしている……!

 浮かれて弾けて、おかしくなってしまいそうだ。

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