転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜
「実はさ……俺、初めてなんだ」

 わざと茶化したように言う。いつもよりもラビッツが大人びているように感じて、軽々しく話していい相手だよなと確認したかったのかもしれない。

「奇遇ね、私もよ」

 いつもよりも柔らかに笑う彼女に、なぜか自信がなくなる。

「ラビッツ、入学前は受験勉強を理由に、俺と会うのを断っていたからなー」
「怖かったのもあるわね。会わないことを受け入れてもらえると確信していたし。ゲームがそうだったから」

 そう。ゲームでそうだったから、俺は疑問にも思わなかった。

「俺が怖かった?」
「ゲームとは違う展開にするのが怖かったの。私のせいでシナリオが壊れてしまうかもって」
「俺もだな。入学の半年前に転生して、これ幸いにと定期的な茶会の断りを受け入れた。俺もラビッツと会うのは少し怖かったんだ」

 転生して、以前のニコラから変わってしまったせいで、周囲の皆も会わずに済むならよかったよかったと安心していた。半年後までに、公と私を使い分けられるよう再教育だ、と。

「……ラビッツ推しなのに?」
「今は少し後悔してる。もっと話したかった。あの時にしか話せないことだって、あったはずなんだ」
「……そうかもしれないわね」

 時間が止まっているようだ。いつも通りを装って話しているのに、心臓の音がうるさい。

 蓄音機のような形の魔導具に手を触れる。銀色の器具がほのかに輝き、空気に波紋のような魔力が広がった。

 ゆっくりと流れ出す三拍子の旋律――、気品あふれるワルツだ。

「踊っていただけますか、お嬢様」
「……少し手が震えてる」
「指摘するなよ、かっこ悪いだろう?」

 差し出した手に、今日は手を重ねてくれる。

「いいえ、安心するわ」
「ならいっか」
「……私だって怖いのよ」

 ダンスを習った記憶はある。

 ラビッツと踊った記憶もあるし、体が覚えてはいる。一人でステップを刻むこともできるのは確認した。

 でも……実際に俺が転生して踊るのは初めてだ。王族や貴族として互いに嗜みはするものの、機会は昔と違って多くない。立食会でファーストダンスを踊ることになってしまい、ちゃんと踊れるか心配だからとラビッツに前日練習をお願いした。ラビッツも不安だったらしく、すぐに了承してくれた。

 ゲームではそんなイベントはなかった。ただの立食会が催されるだけだった。ここでは、学園へのご意見箱に「ファーストダンスをあの二人に頼んではどうか」という内容の用紙が入っていたらしい。学園長からどうだろうかと打診を受けた。ゲームよりも、生徒への俺たちの存在感が増しているのかもしれない。

 お互いにリズムを確認して、足を踏み出す。

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