転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜
「ありがとな。確かに……前世よりも頑張ってる。そうすることでしか見えない景色もあるんだなって、やっと分かったよ」

 顧問には「楽しんだ先でしか見えない景色もある」と言われたけど、俺にはこっちの方が実感している。

「誰かの力になることの嬉しさとかさ。前にも旧校舎の屋上でそんな話をしたけど、今の記憶を持って元の世界に戻ってみたい気もするな」
「私もそうね。でも……戻れないわ」
「だな。ただ、ラビッツと結婚できない世界には、戻りたくないけどな」

 あの時は聞けなかったこと。

「ラビッツに、命の終わりの記憶はあるのか?」
「……あるわ」
「そっか。俺もだよ」

 やっぱり、あるか。

 人生は一度きり。
 終えてしまえば、こうやって転生しても過去の自分はどこにもいない。それまでの誰かとの関係性は全て絶たれる。

「ま、今世では頑張れるだけ頑張るさ! やれることは全部やる!」
「……うん」
「高校デビューならぬ、転生デビューだ! 友達も前よりたくさんできて、可愛い婚約者もいて、最高のアオハルだ!」
「……っ、もう」

 風がふわりと吹き抜けて、ラビッツの髪やスカートが揺れる。

「ねぇ……」
「ん?」
「他の人には、恋人がいないなんて言わないでよ」
「え?」
「さっき、言ってたでしょ。恋人がいたことがないって」
「あ……ああ」
「私、婚約者なんだから。立場がなくなっちゃう」
「わ、分かってる」

 くらくらする。寂しそうな複雑そうな、どこか縋るような瞳におかしくなりそうだ。知らない女の子のようで、俺はちゃんとラビッツのことを見ていたのだろうかと、不安になる。

「恋人だって……言っていいのか?」

 確かめたくて聞いてしまう。

「そう言ってもらわないと困る」
「俺たちは、恋人……なのか?」

 赤い顔で睨んでくるラビッツに、失言だったかもしれないと後悔する。恋人だもんなと、言い切るべきだったのかもしれない。

「違うかもね」

 グサリと心臓を突き刺された気分だ。

 そうだ……怖かったんだ。
 否定されるのが怖かった。

「だって、休みの日に二人で出かけたこともないものね!」

 えええ!?
 涙ぐむラビッツに、慌てて声をあげる。

「あっ、えっと、今度どこかに二人で行こう!」
「どこかってどこよ」
「それは……これから考える」
「そう」

 ツカツカとラビッツが俺の顔面に迫って――。

「誘うのが遅すぎるのよ!」

 そう叫んで背中をみせた。

 もう……一人じゃないのかもしれない。どんどんと距離が近づいている。

 そんな実感が、春の匂いとともに胸に満ちた。
 
 
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