友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「ほ、蛍くん。落ち着いて……! カメラマンさんを、そんな表情で見ないの! 失礼でしょ!?」
「たろーちゃん! やっぱり、そうだよ!」
「子猫か……」

 モデルの男性がなんの前触れもなく、虚空を見つめてぽつりと呟く。てっきり道端で子猫が散歩でもしているのかと思って視線を巡らせるが、いつの間にか小動物の姿は消えていた。

 一体、なんの話をしているんだろう?

 こちらの困惑が見て取れたのか。
 真っ先に明るい声を上げたのは、九尾さんのほうだった。

「やっほー。狐娘こと、九尾莉子でーす。こっちが莉子の旦那様! たろーちゃん!」
「九尾瑚太朗」

 自己紹介を受けて、ようやく合点がいく。
 2人が友情結婚の集いで狐面を被って顔を隠していた夫婦だと。

「こんな近くに、いるなんて……」
「ほんと、すっごい偶然だね! でも、会えてよかったぁ。この間、般若さんに喧嘩を売られてたでしょ? ずっと、心配だったんだ!」

 偶然にしてはあまりにも出来すぎていないかと疑いながら、彼女と再会を喜ぶ。
 蛍くんはその間、ずっと黙り込んでいた。
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