友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 元々口数が多いほうではないけれど、もっとリアクションをしてもいいのに……。
 一体どうしたんだろうかと心配になりながら、彼らと雑談を続ける。

「般若さんって……?」
「鬼の面を被った女」
「有名なの?」
「うん。覇気迫る声音で迫られると、あの集まりに来なくなっちゃう子も多いんだよ」

 般若さんは外見と話す内容が夢に出てきそうなほど、恐ろしかった。
 私も、2回目はいいかなって気になったもん。
 彼女が心配するのも、無理はない気がした。

「菫さん。こんなところで立ち話は、あまりよくないかと。時間も差し迫っていますし……」
「そうだ! 入稿!」

 友情結婚をしたもの同志、交流を深めたいのは山々だが……。
 私達はまだ、仕事中だ。
 蛍くんの指摘を受けなければ、夢中になって話をした結果、いろんな人に迷惑をかけていただろう。

「子猫ちゃん達、忙しいの?」
「社畜なので」
「そっかー。じゃあ、莉子のとっておきを渡しちゃう!」

 私は慌ただしくスマートフォンを取り出し、出版社までの道のりを調べ始める。
 そんなこちらの様子を見かねた彼女が差し出したのは、プライベートな連絡先が書かれた名刺だった。
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