友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「これ以上、何を知りたいって言うんだよ……」

 どうやら蛍くんも同じ気持ちだったようで、お手上げだと言わんばかりにボソリと低い声が紡がれる。
 丁寧語ではないあたり、これが彼の本心なんだろう。

「呆れてる……?」
「そうですね。俺は今、猛烈に頭を抱えたい気分です」

 私が声をかければ、蛍くんは敬語に戻ってしまった。
 距離を取られているとか、いつまで経っても仲良しになれないと感じるとか。
 それも全部、彼の口調が原因だとしたら――。

 私は心を鬼にして、もっと素を出してほしいとお願いするしかなかった。

「俺の本当が、1ミリも伝わっていなかったってことですよね。泣きたいのは、こっちの方ですよ」

 蛍くんは何も悪くない。
 私が歳上だから、砕けた口調をわざと封印しているのだ。
 そんな状況で怒られたら、理不尽だと不機嫌になるのは当然だった。
 だからこそ、言いたくても言えなくて……。

「先輩は、何が不満なんですか」
「それは、その……」
「この際、洗いざらい全部話してください」
「蛍くん、きっと怒るよ……?」
「隠し事をされるほうが、よほど苛立ちます」
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