友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 それが余計に、彼を苛立たせている。
 その自覚があるからこそ、まずは莉子ちゃんのアドバイス通りの行動を取った。

「あ、あのね! もっと、夫婦らしいことがしたくて……」
「たとえば、どんな」
「手を、繋いだり……。抱きしめ、合ったり……。幸せだなぁって、感じたい……」

 普通の夫婦みたいな行動をしたいと伝えたら、蛍くんは露骨に嫌そうな表情をした。
 やっぱり、それじゃ友情結婚の意味がないと思っているのだろう。

「そういうのは、恋人がすることですよね」
「わ、わかってるんだけど……!」
「それとも、菫さんは友人とそうしたスキンシップをしないと、生きていけないタイプだったんですか」
「ご、誤解だよ! 私は、蛍くんだから! したいと、思ってる……!」
「意味がわかりませんね」

 ――言わなきゃよかった。
 そう後悔したところで告げた言葉は元には戻らない。
 どんなに険悪な雰囲気になったとしても、前に進むしかないのだ。

「俺達が結婚することになった理由、忘れたとは言わせませんよ」

 だけど……。
 ずっと一緒にいたいと思っていた人に冷たくあしらわれるのは、自分が思っていた以上にダメージが強かったようだ。
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