友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 なんで私、こんなに悲しんでいるんだろう? 
 自分でも、さっぱりわからなかった。

 年下の男の子に責められて泣くとか、ほんと情けない……。

 勢いで飛び出してしまったけれど、一人暮らしをしていたマンションは解約したあと。

 こんなぐちゃぐちゃな顔のまま実家に逃げ帰れば、今よりも最悪な気分になるようなことを言われるに違いない。
 かと言って、お姉ちゃんのところへアポ無しで押しかけるには距離もあるし……。

 ――どうしよう。
 私が頼れるのって、蛍くんしかいないのかも……。

「今日は、カプセルホテルかな……」

 どちらにせよ、職場で彼と顔を合わせるのは避けられない。
 野宿するわけにもいかず、近隣の宿泊施設に身を寄せようとスマートフォンを取り出そうとして――。

「あ」
「え?」

 聞き覚えのある声が後方から聞こえ、振り返る。
 するとそこには、耳元に携帯電話を当てている、莉子ちゃんの旦那さんの姿があって……。

「子猫、拾った」

 彼はこちらへ電子端末を差し出すと、画面をタップして通話をスピーカーにした。
 すぐさま、元気な奥さんの声が聞こえてくる。
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