友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
『たろーちゃん? うちはペット禁止だよ! かわいそうだけど、連れてきちゃ駄目!』

 莉子ちゃんは私を小動物と勘違いしているようで、電話越しに怒っている。
 かわいらしい姿が目に浮かんでくすりと笑い声を上げれば、旦那さんからスマートフォンを差し出された。

「喋れば」

 促されてしまえば、無視するわけにはいかない。
 私は思い切って、莉子ちゃんに助けを求める。

「莉子ちゃん……!」
『その声……っ。ディレクターさん!? どうしたの!? 泣いてる!?』
「蛍くんに、酷いこと言っちゃった……!」

 幸せな気持ちでいっぱいだったのは、一瞬だ。
 彼女の名前を呼んだら、悲しい気持ちが溢れて止まらなかった。

『たろーちゃん! やっぱり、見捨てないで! お家まで、連れてくること!』
「わかった」

 彼は通話を切断すると、感情の籠もらない瞳でこちらをじっと見つめてくる。
 その間、ずっと無言で気まずいけれど……。

 相手はモデルさんだ。
 必要以上に会話はしないほうがいいだろう。

 私は「ご迷惑をおかけしてすみません」という思いを込め、何度もペコペコとお辞儀を繰り返す。
 九尾くんは何事もなかったかのように前を向くと、そのまま歩き出してしまった。
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