友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 一定の距離を保って着いていくのって、なんだかストーカーみたいで緊張する……。

 かと言って、隣に並び立つわけにもいかないし……! 

 私はなんとも言えない気持ちでいっぱいになりながら、九尾くんと無言のまま莉子ちゃんの待つご自宅へと先導してもらった。

「お、お邪魔します……」
「ディレクターさん! 莉子が変なこと言ったから……! ほんとに、ごめんなさい……!」

 先程旦那さんから連絡を受けていたせいか。
 彼女は私が来るのを今か今かと待ち続けていたようだ。
 玄関扉を開けた途端、靴も履かずに抱きしめられた。
 シャンプーのいい香りが鼻を掠めてリラックス効果を得られたおかげで、一度は止まった涙が再び目元に溜まり出す。

「でもでも、即行動なんて偉いよー! さすがは、ディレクターさんだね!」
「結果が伴えば、もっとよかったんだけど……」
「とりあえず、中へどーぞ! 喧嘩中に一つ屋根の下なんて、気まずいもんね! 何かあったら大変だし、うちに泊まって!」
「で、でも……。迷惑なんじゃ……?」

 ただでさえアポ無しで押しかけたのだ。
 これ以上迷惑をかけるわけにはいかないと遠慮したが、莉子ちゃんは心配無用だと満面の笑みを浮かべた。
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