友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 誰に対しても敬語で自己開示をせず、距離を取る。
 それが伊瀬谷蛍と言う人間だったはずなのに――。

『私はみんなの夢を叶えるために、結婚するつもりはないから!』

 親族から電話越しに結婚を迫られて啖呵を切る菫さんを目撃したら、我慢できなかった。

 ――ちょうどいい。
 この話を利用しよう。

 両親から口うるさく結婚をせっつかれるのには、辟易していた。
 先輩もきっと、同じ気持ちだろう。

『友情結婚した』

 従兄弟と嫁さんが結婚した理由を聞いた時は、馬鹿じゃねぇのかと思った。

『意味わかんねぇんだけど』

 あの時は、露骨に嫌そうな顔をしてはっきりそう告げている。
 だが――。

 彼女につけ入る隙は、ここしかなかった。
 これを逃したら距離を縮める機会は、二度と訪れない。
 そんな確信を持っていたからこそ、従兄弟を真似て友情結婚を持ちかけたのだ。

 ――麗出版に入社し、菫さんの部下になって2年。
 もう、これ以上は待てないと焦って普通とは異なる結婚を持ちかけたのは、恐らく失敗だったのだろう。

「これから俺に、どうしろって言うんだよ……」
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