友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 大喜びで頭を下げ、満面の笑みを浮かべて編集長室をあとにする。
 廊下から外に繋がる出入り口までは、逃げも隠れもできない一本道だ。
 蛍くんに見つかる前に、脱出しなきゃ……! 

「どこ、行くんだよ」
「ひえっ!?」

 思わず素っ頓狂な声を出してしまうのも、無理はなかった。
 蛍くんは壁を背にして胸の前で両腕を組み、苛立ちを隠せな様子でこちらを睨みつけてきたからだ。

「こそこそと、逃げ回って……。そんなに、会話をするのが嫌なんですか」
「だ、だって……! 蛍くんとお話したら、離婚しなきゃいけなくなるでしょ……!?」
「それは、お互いの主張をすり合わせてみなければわかりませんよね」
「そんなことない! 大体、想像はついてる!」
「どうしてですか」
「私と蛍くんの気持ちは、真逆だもん! どちらかが譲歩しない限り、絶対に交わらない……!」

 こうやって言い争いになるから、顔を合わせたくなかったのに! 
 最悪な結末が訪れるのが怖くていっぱいいっぱいになったせいか、声が震える。

 そんなこちらの姿を前にしても、蛍くんは普段の冷静沈着な表情を崩さなくて……。
 それが、悔しくて堪らなかった。
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