友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 ここでちゃんと打ち明けないと駄目だって、わかってる。
 年下の男に負けるなんて、上司としてあり得ない。
 そう思うけど――。

「菫さん」
「ご、ごめんなさい……!」

 私は怒られるのが怖くて、再び逃げ出した。

「ちょっと、待てよ……!」

 しかし、蛍くんだって二度目ともなれば諦めきれないのだろう。
 すっかり敬語を止めて、全力で追いかけてくる。

「ひぃい!?」

 私は後方を振り返り、狙った獲物は逃さないとばかりに本気で走る蛍くんを目撃して悲鳴を上げる。

 なんで私達、深夜に鬼ごっこなんてしているんだろう……? 
 疲れた頭では、考えることすら億劫で。
 私はひとまず商業施設の女子トイレに駆け込み、籠城作戦を決行した。

 ――どうしよう。
 入口は一つしかないし、待ち伏せされたら今度こそ逃げられないよね……? 

 こうしている間にも、蛍くんからメッセージが山のように送られてくる。
 面と向かっての会話が望めないからこそ、文字での意思疎通を試みているのだろう。

『トイレで倒れていませんか』

 こちらを心配するようなメッセージを既読スルーなんてしたら、本気で救急車を呼ばれかねない。
 私はそんな切羽詰まった状況に青ざめ、渋々スマートフォンの画面をタップした。
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