友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
『大丈夫だよ』
『よかった。このまま無視され続けたら、どうしようかと思いました』
『あのね。心配してくれるのは、嬉しいよ』
『だったら……』
『もう、私のことは忘れてほしいの』
『なんのじょうだんですか』

 驚きのあまりか、気が急いているからか。
 漢字変換に失敗した短文がもの凄い速さで送られてくる。
 こちらも負けていられないと変なプライドを刺激され、思いの丈を綴る。

『このまま夫婦生活を続けても、うまくいかないよ』
『決めつけないでください』
『今まで、本当にありがとう』
『なんですか、それ』
『私、蛍くんの奥さんになれて、本当に幸せだった』
『まるで、最後の挨拶みたいな……』
『私達、別れよう?』

 わかっている。意固地になどならず、お互いの齟齬がなくなるまでとことん話し合えばいいだけだって。

 でも、私は面と向かって現実を突きつけられたくないのだ。
 恋愛感情をいだけないと言われるのが嫌で、彼を傷つけるほうを選んでしまった。

 ――そのほうが、楽だから。

 私は蛍くんに好きになってもらえるほど、清廉潔白な女性ではなかった。
 それを自覚してしまったら、とてもじゃないけれど一緒には暮らしてはいけない。
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