友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
『嫌です』
『もう、みんなに嘘をつくのはやめようよ』
『俺は絶対、別れません』
『蛍くん』
『今日は、いい返事を得られないようなので。帰ります。でも、関係を終わらせるつもりはありませんから』

 蛍くんはこれ以上の対話が無駄だと悟り、このメッセージを最後に新たな文字が送信されてくることはなかった。

 ――諦めて、くれたみたい……?

 私はそろりとトイレの扉から顔だけを覗かせ、周りを見渡す。
 彼の姿は、どこにもない。

 ――やっと、落ち着けそう……。

 私はほっと胸を撫で下ろすと、商業施設を出るために外へ向かって歩き出す。
 催事場にはジューンブライドの季節が近いからか、日中に結婚相談会が開かれていたらしい。
 ガラスケースに入ったウエディングドレスに目を奪われ、思わず歩みを止める。

 ――普通の恋愛結婚だったら。
 タキシード姿の蛍くんと、純白のドレスに身を包んだ私がみんなから祝福される未来もあり得たのだろうか……?

「なんで自分から、別れを切り出さなきゃいけなかったんだろう……」

 これも全部、軽い気持ちで友情結婚に同意した自分のせいだ。
 私は泣き崩れてしまいそうな気持ちをぐっと堪えると、そんな憂鬱な気持ちをかき消すように歩き出した。
< 143 / 238 >

この作品をシェア

pagetop