友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「俺は幼い頃から篝火グループの後継者となるべく、年の近い従兄弟とともに厳しい教育を受けてきました」

 過去を話す蛍くんの顔色は、いつまで経っても優れない。
 この先に続く彼の経験はあまりいいものではないのだろう。
 私はどんな恐ろしい話題が語られるのかと怯えながらも、黙って聞き続ける。

「どんなにつらく苦しくても、泣き言など口にできるような環境ではなかった。なのに、周りからはあの篝火グループの御子息だと羨ましがられる。最悪の気分でした。羨んでる奴らに、どれほど変わってほしいと願ったことか……」

 夫の口から語られる内容は、聞いているこっちまで憂鬱になるような話ばかりだった。
 感情を押し殺しているのが、嫌でも伝わってくる。
 このまま私に伝えることで、彼の心が壊れてしまうんじゃないかと不安で仕方なかった。

「それは、大人になっても変わりません。何度与えられた壁を乗り越えても、次々に新しい目標が与えられる。母からもらった褒美は、この施設で好きなだけ遊べる権利だけ……」

 このまま話を続けて、本当に大丈夫だろうか?

 そう不安になってしまうほど、心の傷は深い。
 結婚や妊娠出産を強要された私なんかよりもずっと、蛍くんは苦しくつらい幼少期を送ってきていたのだろう。
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