友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「麗出版に就職した時点で、もう二度と実家になんか戻るもんかと、本気で思っていました。ですが……。従兄弟の話を聞く限りでは、そうも言っていられない状況になりそうです」
「蛍くん、社長さんになるの……?」
「ならないに、越したことはないのですが……。菫さんも、戸惑いますよね。俺の事情を知らないで、結婚したんですから。ある日いきなり社長夫人なんて、受け入れられるわけがない……」
「そんなこと……!」

 口では否定したものの、いざ現実となった時に恐ろしい思いをするのはほかでもない自分だ。
 それがわかっているからこそ、この先に続く言葉を簡単には紡げない。

「振り回してしまって、すみません。最悪な事態が起きないように、こちらも抗います。ですが、どうしようもならなかった時は……」

 離婚することになるなんて、考えたくもなかった。
 その気持ちは、彼も同じなのだろう。
 苦しそうに唇を噛みしめて悔しさをにじませる姿は、蛍くんらしくなかった。

「蛍くんが悩み抜いた答えだったら、受け入れるしかないよ」

 でも、これこそが今まで知られたくなくて隠していた、弱さの可能性もある。
 だから、私は……。
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