友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 こういう時、蛍くんはどんな言葉を伝えたら喜ぶんだろう? 
 私はたくさん考えて悩んだが、どうしても答えには辿り着けない。

「なぁ。俺のこと、捨てないよな?」

 そうこうしている間に、まるで捨て猫のように瞳を潤ませた夫がこちらを見つめた。

「ずっと、一緒にいてほしい。その望みさえ叶えば、俺は……」

 蛍くんは酔っ払っているせいか、今までひた隠しにしていた願望を曝け出す。
 それに寄り添わず無視するなど、妻のやることではない。
 だから私は、顔を覆う彼の大きな腕を掴んで外し、頷いた。

「うん」
「本当に?」
「約束したもん。ちゃんと、守るからね」

 もう二度とあんなに悲しい思いをしたくない。
 その一心で優しく微笑むと、蛍くんはこちらに凄む。

「忘れるなよ。何があっても、絶対に」
「蛍くんのほうこそ。別れてほしいなんて、言ったら駄目だから」
「抱きしめても、いい?」
「どうぞ。蛍くんなら、大歓迎だよ」

 蛍くんは、不安そうに瞳を揺らしている。
 掴んでいた両腕を離して両手を広げると、彼は勢いよく胸元へ己の身体を閉じ込めた。

「ずっと、こうやって触れたかった」

 夫は耳元でそう囁いたきり、黙ってしまう。
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