友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 彼が思っているよりもずっと、重篤な病状の可能性だってある。

 もしも最後の別れ、なんてことになったら……。
 本当に、後悔しないのだろうか?

「ねぇ、蛍くん……」
「菫さん。仕事に集中してください」
「でも……」
「放っておけばいいんですよ。本気で危ない状態なら、病院から連絡が来ます」
「その頃にはもう、手遅れなんじゃ……?」
「それくらいが、ちょうどいいんですよ。逃げも隠れもできなくなるので」

 デートの際、蛍火グループを継ぐことになるかもしれないと、覚悟はしていると伝えてくれた。
 でも……。
 彼はまだ、決心が固まっていなのだろう。四面楚歌になって初めて、前に進んでいける。
 それまでは、ぬるま湯に浸かって幸せを享受していたい――。

 そんな夫の気持ちに寄り添って、その思いを尊重するべきだとわかっていた。
 けれど、それじゃいけないという自分の直感も信じたくて……。
 私はどうにかして蛍くんをご両親の元へ向かわせられないかとタイミングを窺う。

「蛍くん。あのね。やっぱり……」
「伊瀬谷さん!」

 私は一瞬振り向きかけたが、ぐっと堪える。
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