友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 その直後、彼に身体を預けたのを後悔した。
 伊瀬谷くんは私が逃げられない状況を作り出せる機会を、虎視眈々と狙っていたのだろう。

 ――やらかした。

 今さら青ざめたところで、もう遅い。
 部下はすでに私を背に乗せ、歩き出していたからだ。

「心を許したのが、馬鹿みたい」

 どうやって距離を縮めようかと画策してくる彼から逃れればいいのかと悩んでいたところで、口に出した覚えのない言葉が聞こえてきて驚く。
 こうして動揺しているのも、全部図星だったからだ。

「そんなふうに、感じてくださったんですか」
「さっきの発言で、台無しだよ」
「それは、残念です」

 すっかり部下に、主導権を握られてしまった。
 私はそれに不満をいだきながら、どうにか逆転の一手を繰り出せないかと足掻く。

「伊瀬谷くんって、勘違いされやすい性格をしているよね」
「よく言われます」
「表情、あまり変わらないし。敬語だし。気配も薄いし……」
「意図的ですよ」
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