友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 そして、病室の特別室で床に伏せる、伊瀬谷家のお母様と待ち受けるお父様と対面した。

「来たか」
「迷惑なんだよ。連絡してくるなって、言っただろ」
「大事な話がある」
「聞きたくない」
「蛍」

 こうして親子の会話を聞いていると、蛍くんの無口なところはお父様譲りなのかもしれないなぁと思う。
 こんな状況下でさえ、感情を押し殺した表情で息子を見つめる姿は、職場にいる時の夫とそっくりだった。

「癌だった」
「は……?」
「持って、3年だそうだ」

 蛍くんは父親の口から説明を受け、青ざめた表情で拳を握りしめる。
 いくら反抗的な態度を取っていたとしても、肉親の命が長くないと聞かされたら冷静でいられるはずがない。

 ――今にも倒れてしまいそうな夫を支えられるのは、私だけだ。

 それに気づき、慌てて蛍くんへ寄り添った。

「蛍火グループは代々、直系の女性が跡を継いできた。だが、孫娘の誕生を待つ時間は残されていない」
「あんたが継げばいいだろ!?」
「私は婿養子だ」

 彼の怒りは、背中を優しく擦っても収まらない。
 心の奥底に沈めていた鬱々とした思いが、一気に溢れ出ている。
 こんな状況では、冷静な話し合いなどできるはずがなかった。
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