友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 内心そう喜んでいる間にも、男性陣の会話は続く。

「継ぐのはお前。俺は補佐。それが徹底できれば、構わない」
「先に言えよ……」
「それでしばらく、やってみる。それで無理なら、嫁を呼べばいい」

 九尾くんのアドバイスを受けた蛍くんは、言葉にしづらい表情を浮かべたあと、ぽつりと呟く。

「なんとかするしか、ねぇんだよな」
「ああ」
「わかった。編集者は、辞める。継げば、いいんだろ」
「お前なら、そういうと思った」
「嬉しそうにすんじゃねぇよ!」

 九尾くんに向かって声を荒らげた蛍くんは、本来の調子を取り戻したようだ。
 ギャーギャーとコントのような言い争いを続けながらじゃれ合う姿は、仲のいい兄弟みたいだった。

 ――これで一件落着だと安心するのは、まだ早い。

 いくら家庭の事情とはいえ、出版社は万年人手不足だ。
 彼がいなくなれば、担当していた仕事を誰かがこなす必要が出てくる。
 カバーに入るのは、恐らく私になるだろう。

 彼が親族から望まれて蛍火グループを継ぐと決めたのは喜ばしいことではあるけど、何もかもがうまくいくとは限らない。
 ここはゴールではなく、スタートなのだ。
 気を緩めるよりも引きしめるべきだと、笑顔の裏側で人知れず気合を入れた。
< 211 / 238 >

この作品をシェア

pagetop