友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 面と向かって話すのが当たり前だった時期が長いからか。
 相手の声だけを聞いて満足する気には、到底なれなかったけれど――。
 これからは
、仕事の間を縫ってこそこそと連絡を取り合うのが普通になる。

「寂しいなぁ……」

 蛍くんの背中なんて、押さなければよかったのかな。
 そう後悔する自分を見ないふりしながら、久しぶりに声だけでも聞けて満足だと己を鼓舞する。

 ――蛍くんが部下じゃなくなってから、まだ数か月前しか経っていないんだもん。

「ディレクターさーん! チェックお願いしまーす」

 私は莉子ちゃんに呼ばれ、彼女の元へ歩みを進める。

「はーい!」

 根を上げるのは、今じゃない。
 そう何度も自分に言い聞かせたあと、仕事に集中した。
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