友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果

「先輩はこの会社で、初めてできた俺の友達なんですから」

　そんな自己嫌悪に陥っていると、嬉しそうな彼の声が前方から聞こえてくる。

「友達だと思ってるから、私を気にしてくれてるの？」
「そうですよ」

　まさか、伊瀬谷くんが私のことをそんなふうに思ってくれているなんて、思いもしなかった。
　もしも彼と自分が同じ気持ちなら、友情結婚を持ちかけられた時――返事を即答できたのだろうか……。

「なんか、ごめん……。私、伊瀬谷くんのことはずっと年下の部下としか思っていなくて……」
「いいですよ。別に。これから、年下の友達だと思って接してくれたら」

　なんだか申し訳なくなり謝罪をすれば、彼はどこか不貞腐れたように言葉を発した。
　その後、こちらがうんともすんとも言わずに無言を貫き続けたせいで、友達になんかなりたくないと解釈されてしまったのだろうか。
　伊瀬谷くんは、聞き取りづらい声でぽつりと呟いた。

「この発言だけだと、俺が勝手に先輩を友達だと思っている異常者みたいですね」
「自覚はあるんだ……」

　私達は上司と部下。
　それ以上でもそれ以下でもなかった。
　そんな関係を進展させようと躍起になっているのは、伊瀬谷くんだけだ。