友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「伊瀬谷様。お待ちしておりました」

 そこから先は、ドタバタだった。
 蛍くんは出迎えをにこやかに受けると、意気揚々と人混みの中へ果敢に挑む。

 そこからは、ひたすら社交の時間だ。
 次々に挨拶を続け、雑談に花を咲かせる。
 時間が経つに連れて参加者の顔と名前がパッと出てこないのか、相手の名前を呼ばなくなった。

花崎(はなざき)様。先日は夫に社長就任祝いの素敵なお花を頂きまして、誠にありがとうございました」

 そういう時は、こちらから率先して声を発する。
 すると、蛍くんは即座に一瞬だけオフになったスイッチをすぐに入れ、話題を膨らませていく。

「とても綺麗で、品質がよかったです」
「そうでしょう! ブリザーブドフラワーにするか迷ったのですが、生花にして正解でした!」

 花崎様は満面の笑みを浮かべ、自社で販売している花の鮮度について嬉々として語り出す。

 ――蛍くんの秘書をするようになってから、編集者の仕事をしていた時とほとんど業務内容が変わらないことに気づいた。

 何よりも大事なのは、報連相。
 そして、下準備だ。
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