友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
 蛍火グループと関連のある会社の重鎮たちのプロフィールを片っ端から調べ上げ、頭に入れる。
 そして、適切な場面で彼に提示するのだ。

 蛍くんは人間の顔と名前を覚えるのが苦手なタイプだから、うまく欠けた部分を補えていい感じにサポートが出来ている。
 そんな気がしたのは、こちらの気の所為ではないと思いたかった。

「記念日にはぜひとも、我が社の花々をご贔屓に!」
「ええ、ぜひ」

 花崎さんは笑みを浮かべると、上機嫌な様子でこの場から去って行った。

「菫さん、ありがとうございます。助かりました」
「うんん。横から口を挟んで、なんだこの女はって思われていないかな……?」
「問題ないと思いますよ」
「よかった……」

 蛍くんの力に少しでもなれたなら、行動した甲斐があった。
 この調子で、どんどん行こう! 
 そう気合を入れ直し、仕事モードへスイッチを切り替えた時だ。

「――菫?」

 不思議そうに、私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
 旧姓ならともかく、蛍くん以外の人から下の名前を聞くなんて思いもしない。

 一体、誰なんだろう? 

 訝しげな視線を後方に向けると、そこには縁を切ったはずの父親の姿があった。
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