友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「お父さん……」
「なぜ、こんなところに……」
「ご無沙汰しております」

 呆然と立ち尽くし、いつまで経っても行動する様子がないからか。
 蛍くんはにこやかな笑みを口元だけに浮かべ、父親に頭を下げた。

「ここは貴様らが出入りしていいようなところでは……」
「この度、社長に就任いたしました。伊瀬谷蛍と申します」
「か、篝火グループだと!?」

 お父さんには、私が出版社を辞めたと説明していなかった。
 蛍くんの社長就任も知らないためか。
 名刺を受け取った直後、素っ頓狂な声を上げて驚く。

「そんな大御所の妻になると、なぜもっと早くに言わなかった……!」
「言えるわけないよ。私も、つい最近知ったの」
「今まで斡旋してきたどの見合い相手よりも、家柄や地位が秀でているではないか……!」

 まさか夫婦揃って大反対していた結婚が、とんでもない優良物件だったなど思いもしなかったのだろう。
 目の色を変えて、蛍くんに媚を売り始めた。

「私の娘を見初めて頂き、感謝いたします! ぜひとも、今後も良好な関係を気づいていきたく……!」
「ちょっと、止め……」
「お断りします」
「はい……?」

 我が父ながら、恥ずかしくて仕方ない。
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